最新記事

仏政治

反米感情に乗るフランス大統領選

米仏同盟に疑問を呈する大統領候補の支持率が有権者の3分の1にのぼるお国柄

2012年4月11日(水)14時56分
イザベル・ラホール

アメリカ憎し 極右・国民戦線のルペン候補(中央)はアメリカ文化を敵視する Stephane Mahe-Reuters

 フランス国民にとって、イランの核開発も中東問題も北朝鮮も地球温暖化も飢餓も、大した問題ではないらしい。フランスの極左によれば、「アメリカこそが世界最大の問題」だ。

 フランスをこき下ろすことが米共和党予備選での常套手段だとすれば、4月に大統領選を控えたフランスだって同じ。反米感情はかつてほどではないものの、アメリカの影響力や文化に対してフランス人が抱いている愛憎入り交じった感情が、投票の行方を左右しそうなことは確かだ。

 左翼党のジャンリュック・メランションにしろ極右・国民戦線のマリーヌ・ルペンにしろ、仏米の同盟関係に公然と疑問を呈する候補者を支持する有権者はおよそ3分の1に上る。

 アメリカに対して最も敵意に満ちた攻撃を展開しているのが、支持率約9%のメランションだ。自著『奴らをつまみ出せ』の中では、底なしの消費と軍事費が支えるアメリカ型の経済モデルは「命取りのからくり」であり、「文明の危機の元凶」だと主張している。

 債務危機に悩まされ、大統領選後には緊縮政策が待ち受けるとみられるフランスで、アメリカが世界経済を支配していることへの批判は高まる一方だ。

 メランションとは政治的に対極に位置するルペン率いる極右の国民戦線は、20%近い支持を獲得。ナショナリストのルペンはアメリカ文化を敵視し、「コカ・コーラとマクドナルドを貪り、歴史も伝統も無視して多国籍企業にカネを落とす強迫観念に取りつかれた消費者たち」がのさばることを恐れている。

 移民に反対で外国人嫌いな国民戦線の支持者たちが、アメリカについて懸念していることがもう1つある。「人種のるつぼ」だ。「厳格な移民政策を導入しなければどうなるか──フランスやヨーロッパが将来直面するだろう脅威を、アメリカは体現している」と、近著『マリーヌ・ルペンによる世界』を発表したマガリ・バレントは言う。

オバマの人気は絶大だが

 フランスの反米主義の歴史は、アメリカの歴史と同じくらい長い。詩人シャルル・ボードレールから哲学者ジャン=ポール・サルトルに至るまで、偉大な識者たちは理由を見つけては「ヤンキー」をこき下ろしてきた。

『アメリカという敵──フランス反米主義の系譜』の著者フィリップ・ロジェは、反米主義は根深い国家的な偏見だと指摘する。アメリカ人は「無教養な野蛮人でカネの亡者」だと、根拠もなく長年叫んできた結果なのだという。

 イラク戦争をきっかけに、対米感情は一気に悪化。ジョージ・W・ブッシュ前米大統領は、フランス人から見てまさに「悪役」そのものだった。

 07年、フランスは「アメリカの友人」の異名を持つニコラ・サルコジを大統領に選出。サルコジは就任直後の訪米で、冗談めかして言った。「アメリカの友人でも、フランス大統領になれるのだとお伝えしに来た」

 そんなフランスでも、バラク・オバマ米大統領の人気は絶大だ。オバマが選ばれただけで、アメリカへの支持は30ポイント以上も上昇。調査機関ピュー・リサーチセンターによれば、フランス人の75%がアメリカに好意的だ。「私たちは反米主義なわけじゃない。アメリカの政策に反対なだけ」と、左翼党の支持者ダニー・ケロンは言う。

 とはいえ、昔からの反米感情は簡単に消えるものではない。「もしも明日、(保守派の象徴的存在である)リック・サントラムが大統領になってアメリカの政策が変われば、フランスの反米主義は再び燃え上がるだろう」と、ロジェは言う。

 複雑で危険な「アメリカ問題」への対処が、フランス大統領選でも鍵を握りそうだ。

[2012年3月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英アンドルー元王子を逮捕 エプスタイン氏巡る不正行

ビジネス

ラガルドECB総裁、職務に専念と同僚らに伝達 即時

ビジネス

アイルランドの法人税収、多国籍企業3社が約半分占め

ワールド

トルコの和平工程表承認、PKK関係者が「重要な一歩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 5
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 9
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中