最新記事

米中関係

米上院、対中制裁法案可決の意味

人民元安に苛立つ米議会の動きは中国の報復を招き、貿易戦争の引き金になりかねない

2011年10月13日(木)16時16分
リリアン・リゾー

為替操作? 人為的な人民元安は輸出補助金と同じと米議会は考えている Petar Kujundzic-Reuters

 中国当局は為替操作による人民元安で中国の輸出を不当に促進し、アメリカの雇用を脅かしている──そんな不満が募るなか、米上院は今週、中国への「制裁法案」を可決した。中国当局は怒りを爆発させており、米中「貿易戦争」の引き金になりかねない。

 この法案は、自国通貨の過小評価を誘導している国に対して、米政府が相殺関税などの手段を使って制裁を課すというもの。最大の貿易相手国である中国に対するアメリカの苛立ちが反映されている。

 中国政府は直ちに反対を表明し、両国間の「貿易戦争」を引き起こしかねないと警告した。中国政府外交部の劉為民(リウ・ウェイミン)報道官は「法案は世界貿易機関(WTO)のルールに著しく違反している。中米両国の経済、貿易関係を阻害するうえ、アメリカの経済、雇用問題の解決にもつながらない」と語った。

 もっとも、実際に法案が成立する見込みは薄い。上院では63対35の賛成多数で可決されたものの、下院では審議の見通しが立っておらず、大統領も署名に慎重な姿勢をみせている。

 中国側に歩み寄りの姿勢がまったくみえないわけではない。中央銀行にあたる中国人民銀行は最近、アメリカの人民元切り上げ圧力に応えて、人民元の対ドルレートを上げる為替介入を行っている。

国内産業保護の切り札になるか

 法案の賛成派に言わせれば、人民元の為替レートを低く抑制する中国の政策は、中国の輸出産業を利する補助金のような存在だ。今回の法案が実現すれば、国際的な貿易不均衡とアジアとの競争によってシェアを奪われたアメリカの国内産業を保護できるという。一方、反対派はアメリカ企業に対する報復を招き、「貿易戦争」を引き起こしかねないと主張する。

 中国外交部の馬朝旭(マ・ジャオシュ)報道官は、この法案を「誰も得をせず、弊害しかない」と非難している。

 オバマ大統領も法案に100%賛同はしておらず、「WTOから拒否されかねない『象徴的』な法案を成立させることは望まない」と先週語ったという。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中