最新記事

チベット

「チベット僧に殺人罪」という中国の荒技

抗議の焼身自殺を果たした僧侶の仲間に懲役刑――チベット抑圧強化を示唆する新たな展開

2011年8月31日(水)17時39分
エミリー・ロディッシュ

自由を求めて 08年チベット騒乱の再燃を警戒する中国政府は、僧侶の抗議自殺にもぴりぴり Reuters

 8月15日、中国南西部の四川省カンゼ・チベット族自治州で1人の僧侶が焼身自殺した。チベット仏教界を震撼させたこの事件を起こした僧侶はツェワン・ノルブ。周囲からはノルコと呼ばれていた。

 ノルコは中国政府の圧政に抗議して、自らの体に火を付けた。その行為を目撃した人々は息を飲んで足を止め、中国に暮らすチベット人が受けている抑圧を強く思わされた。

 だが人々の間に、「またか」という反応があったのも確か。この半年間のうちに、焼身自殺で命を落としたチベット僧はノルコで2人目だった。

 そして8月29日、四川省で3月に焼身自殺した1人目の僧侶であるリグジン・プンツォの名前が、再び新聞の見出しを飾った。

 中国の新華社通信によれば、裁判所がプンツォの叔父である僧侶ドンドゥに、「故意の殺人罪」で懲役11年の判決を言い渡したという。プンツォが焼身自殺を図った後、その身柄を隠して治療を受けられないようにしたというのが理由だ。

 ロイター通信の記事を見てみよう。


「ドンドゥは殺人の罪を認め、彼の身柄を隠して救命処置を受けさせるのを阻んだことを深く後悔していると述べ、情状酌量を求めた。ドンドゥは裁判で、判決に不服を申し立てることはないと語った」と、新華社通信は報じている。


ダライ・ラマは反対しているが

 ドンドゥのほかにも2人の僧侶が、8月30日に開かれた裁判で懲役10年と同13年の判決を言い渡された。プンツォの焼身自殺を「企て、扇動して幇助した」罪だという。

「抗議行動に対処する上で、中国政府はまったく新しい手を使い出した。これほど狡猾に法律を適用する例は見たことがない」と、チベット専門家であるコロンビア大学のロバート・バーネット准教授はロサンゼルス・タイムズ紙に語った。「弾圧を強化するために法律を操作している、とチベット人は考えるだろう」

 3月に焼身自殺したプンツォは警察に捕えられることがないよう、四川省のキルティ僧院に身柄を隠された。翌日彼が亡くなったことをきっかけに、僧侶や住民らによるデモが発生。その後数週間にわたり中国人とチベット人の衝突が起きた。

 ドンドゥの判決があった29日、インドのチベット亡命政府が運営する「チベット人権民主化センター(TCHRD)」は、実刑判決を非難する声明を発表。「TCHRDは、このように誤った殺人容疑や告訴理由は不当であると見なす」とした。

  中国では09年以降、少なくとも3人のチベット僧が焼身自殺を図っているという。しかしロサンゼルス・タイムズによれば、チベット僧の焼身自殺は以前よりは少なくなっている。彼らの精神的な指導者であるダライ・ラマがこの行為を非難しているからだ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦時下でも「物流を止めるな」 ウクライナ

ワールド

メキシコ南部でM6.5の地震、首都でも揺れ 大統領

ワールド

再送ウクライナ北東部ハルキウの集合住宅に攻撃、2人

ビジネス

米国株式市場=5営業ぶり反発、ダウ319ドル高 半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 5
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中