最新記事

中国

カリブ海を困惑させる中国の投資ブーム

天然資源も大きな消費市場もない小さな国々に巨額を投じるのは台湾を孤立させるため?

2011年4月25日(月)15時51分
エズラ・ファイザー

一大産業 カリブ海諸国では大規模な観光施設が続々と誕生(バハマの巨大リゾート「アトランティス」)

 2005年、カリブ海に浮かぶ小さな島国グレナダに中国政府から「プレゼント」が贈られた。建設費5500万ドルのクリケットスタジアムだ。

 これは07年に開かれたクリケット・ワールドカップに向けて、中国がカリブ海諸国に提供した総額1億3200万ドルの援助や低金利融資の一部。当時は、対中関係を重視して台湾との公的関係を断ち切ったグレナダへの、気前のいい「ご褒美」と受け止められていた。

 しかし、その後の中国の振る舞いをみると、スタジアム建設などちっぽけな話に思える。中国の政府と民間企業は、カリブ海諸国に大規模な観光施設を建て、道路や港湾を整備するために巨額を拠出。資金難に苦しむカリブ海諸国は「恩人」の好意に感謝する一方で、中国が見返りに何を求めているのか、いぶかっている。

「カリブ海のほぼすべての島が中国から巨額の投資を受けている」と、ロンドンを拠点にカリブ海諸国にコンサルティングを行うカリブ評議会のデービッド・ジェソップ会長は言う。「中国の思惑は誰にもわからないようだ」

 中国商務部によれば、09年に中国企業が行ったカリブ海諸国への海外直接投資は、04年の3倍以上にあたる70億ドル近く。租税回避を狙ってケイマン諸島のようなタックスヘブンに流れた資金(09年の海外直接投資は53億ドル)も含まれるため、すべてが実際の投資ではないが、カリブ海諸国が中国の官民双方から巨額の支援を受けているのは事実だ。

 先月には、政府系金融機関の中国輸出入銀行による24億ドルの巨大プロジェクトも始まった。カリブ随一のカジノと3800室の客室をもつ大型リゾート施設「バハ・マー・リゾート」をバハマに建設する計画だ。

市民生活に浸透する中国製品

 中国からの投資の高まりは外交的な理由によるものだと語るのは、ジャマイカの元駐米大使で米州開発銀行(ワシントン)でカリブ部門のトップを務めるリチャード・バーナル。「台湾との関係を維持している国は世界でも少なく、そのうち12カ国が中米およびカリブ海の国だ」と、バーナルは言う(台湾との外交関係があるのは23カ国で、そのうちカリブ海の国はベリーズ、ドミニカ共和国、ハイチ、セントルシア、セントクリストファー・ネービス、セントビンセントの6カ国)。

 中国の駐バルバドス大使、魏強(ウェイ・チアン)によれば、中国はカリブ海での覇権を他の大国と競うことに関心があるわけではなく、カリブ海諸国を潜在的なパートナーとみなしているという。「他の途上国との連携を深めることが中国外交の一つの柱だ。カリブ海諸国はそうした戦略にとって欠かせない存在だ」

 とはいえ、中国はほとんど見返りを得ていないように思える。中国がターゲットとしてきたアフリカや南米と違って、カリブ海諸国は原料や食料の重要な生産地ではない。

 しかも39の島の総人口は、中国の人口の約3%にあたるわずか4000万人で、中国製品の大規模な輸出先にもなりそうにない。「小さな市場で、現在の貿易量は多くない」と、魏大使は言う。

 しかし地元住民に言わせれば、中国の存在感は増し続けている。ドミニカ共和国の首都サントドミンゴのタクシー運転手、トマス・ロラによれば、彼が勤めるタクシー会社は数カ月前、見た目も乗り心地もトヨタの車によく似た車両に買い換えたという。「トヨタじゃなくて中国製だけど、カローラにそっくりで違いが分からない。値段はトヨタの半額だそうだ」と、ロラは言う。「街中にメイド・イン・チャイナがあふれてるよ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中