最新記事

アジア

国後島訪問はプーチンへの挑戦状

北方領土を訪れたロシアのメドベージェフ大統領の狙いは、次期大統領選でプーチンの返り咲きを封じるためのイメージ戦略

2010年11月8日(月)16時25分
藤田岳人(本誌記者)

タフガイ路線 日本は事前に強い懸念を表明していたが、北方領土の国後島訪問を強行したメドベージェフ Ria Novosti-Reuters

 モスクワから見て東の果てにある北方領土は、多くのロシア国民からは忘れ去られた土地。ソ連時代を含めてロシアの元首でこの地を訪れた者はいなかった──先週、メドベージェフ大統領が国後島に乗り込むまでは。

 日本政府の反発は当然予測できたし、日ロ間の経済関係にひびが入る可能性もある。それでも、あえてメドベージェフが辺境の地を訪れたのはなぜか。

 表向きの目的は、07年から始まった「クリル(千島)列島社会経済発展計画」の進捗状況の視察。しかし、それを真に受けている者はほとんどいない。

 米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、訪問は「次期大統領選に注目が集まりつつある国内への明確なメッセージ」。ロシアでは来年末に下院選が、再来年に大統領選が行われる。「政治の季節」を控え、国内にくまなく目を配る姿勢とともに領土問題で日本に譲らない強い外交姿勢を示すことで、タフな大統領像を印象付けたかったはずだ。

 つまりメドベージェフは、次期大統領選でプーチン首相の大統領復帰のために身を引くのではなく、自らの再選を狙っているということ。プーチンの操り人形と見られていたメドベージェフの独り立ちの兆候は以前から表れていた。

 9月には高速道路の建設をめぐって大統領に反発したモスクワのルシコフ市長を猛攻撃し、最終的には解任。公式にはメドベージェフを支持したプーチンも、裏ではこの独断的な行動に激怒したらしい。さらに元KGB(ソ連国家保安委員会)の大物ゲンナジー・グドコフなど、プーチン派だった有力者たちがメドベージェフ支持に回る動きも出始めている。

 領土問題で強硬な姿勢を示すのも今回が初めてではない。大統領就任間もない08年には、南オセチアの独立をめぐりグルジアとの戦争に踏み切った。

 とはいえ、メドベージェフがプーチンと対立しているとみるのは早計かもしれない。自らの再選に意欲を見せておかなければプーチン返り咲きが規定路線で、大統領選前に任期を消化しているだけと見なされてしまう危険性がある。ロシアの現代化という野心を持つ若きリーダーとしては避けたい事態だ。

 メドベージェフは歯舞群島と色丹島の訪問も計画しているという。トラ狩りや柔道でタフガイぶりを見せつけてきた男、プーチンに対抗するため、今後も「強い大統領」のイメージを打ち出してくるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

トランプ氏、ウクライナ兵器提供表明 50日以内の和

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中