最新記事

国連

新興国の安保理入りが脅かすアメリカの地位

インド、南アフリカなど有力新興国が多数メンバー入りしたことで、国連安保理の政治力学が激変した

2010年10月13日(水)17時37分
コラム・リンチ

大国かつ強硬 インドのマンモハン・シン首相(左)の発言には、オバマも耳を傾けざるを得ない(6月のG20で) Jason Reed-Reuters

 国連総会は12日、安全保障理事会の非常任理事国10カ国のうち、新たにドイツ、インド、南アフリカ、コロンビア、ポルトガルを選出した。任期は来年1月から2年間になる。

 複数の新興国が選出された今回の入れ替え選挙は、安保理の常任理事国入りを夢見る彼らにとって、国際舞台で実力を披露するまたとないチャンスだ。

 一方で、この結果はアメリカにとっては障害となる可能性もある。新たな構成国となるインドや南アフリカは、現メンバーのブラジルと同様、アメリカとはまったく異なる事情を抱えている。核開発問題での対イラン経済制裁から外交における人権重視の度合いまで、何から何まで意見が分かれるのだ。おまけに彼らは、そうした対立意見を強硬に押し通そうとする。

 今回の選挙は、常任理事国のメンバーを拡大するべきか、メンバーを増やすのなら多様な構成国をどうやって選ぶべきかと、安保理が議論を重ねている最中に行われたものだった。インドやブラジル、南アなどを含む中堅国家は、安保理で増した影響力を最大限に行使して、常任理事国の拡大論を主張していくかまえだ。

「おそらく今回の安保理は、過去最強のものになるだろう」と、元ニュージーランド外交官でコロンビア大学提携のシンクタンク「安全保障理事会リポート」の代表を務めるコリン・キーティングは言う。「ここ15年の間、安保理が今の世界状況を反映していないと主張し続けてきた人々にとっては、これは最大の好機になる。突然、不満を抱えていた新興国がすべて構成国入りを果たしたのだ。今後、彼らは自分たちの存在感をどう生かしていくのか――彼らの安保理入りに意味があるということを説得力をもって示すチャンスだ」

イラン制裁決議で存在感

 彼らの「物言う姿勢」は、既に目に見え始めている。例えば今年6月、イラン核開発に対して行われた追加制裁決議。この決議で、ブラジルとトルコは反対票を投じた(賛成多数で決議は採択された)。「受身でいるだけなら安保理メンバーである意味がない」と、トルコのアフメット・ダウトオール外相は先月のインタビューで語った。

 攻めの姿勢を示しているのは、インドも同様だ。「当然ながら、インドは力を尽くし、2年間の任期で与えられた時間を最大限に活用するつもりだ。そうすることで、仲間の新興国から信頼を勝ち取り、インドの常任理事国入りに支持を得られるようにしたい」と、インドの国連大使ハルディブ・シン・プリは選挙後に語った。

「われわれは世界の人口の6分の1を占めるインド国民の声を安保理に持ち込む。インドは63年の間、国づくりに努力してきた。まさにこの経験が国連でも生かせるはずだ」

 6月のイラン制裁決議では、ブラジルとトルコは安保理の既存の体制を覆すことを狙い、異なる意見を持ち込もうと試みた。常任理事国の5大国が主導する安保理の体制に、対決姿勢を示したのだ。だが拒否権を持つ常任理事国5カ国は協調し、ブラジルとトルコの反対票を押し切って制裁決議を採択した。

パートナーとして手を組めるか

 安保理は毎年、非常任理事国10カ国のうち5カ国を新たに選出することになっている。今回選ばれた5カ国は、オーストリア、日本、メキシコ、トルコ、ウガンダに代わって2011年の1月1日から任期に就く。ボスニア、ブラジル、ガボン、レバノン、ナイジェリアの5カ国は、2011年末までが任期となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米陸軍、ドローン100万機購入へ ウクライナ戦闘踏

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待低下、雇用に懸念も=N

ワールド

ロシア、アフリカから1400人超の戦闘員投入 ウク

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中