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日中関係

日米弱体化のスキが生んだ尖閣問題

2010年9月21日(火)18時08分
ジョナサン・アダムズ(台北)

「報復カードはまだまだある」

 復旦大学の沈は、近年は日中で前向きな交流が多く行われていたと言う。だが漁場だけでなく他の経済権益を求める中国の興味が日本近海にまで迫るようになった今、今回のような衝突が起こるのは時間の問題だったと言う。沈が言うには、日本が中国への経済的依存を強める一方、中国は経済的・軍事的に力をつけたため、尖閣諸島を巡る日中の力の均衡が崩れた。「(海保は)何年にもわたって違法に同地にとどまり、中国は戦争を起こさないため何年も自制してきた」と、沈は言う。「だがそれも変わった。中国国民はもう自分を抑えなくなったし、中国政府は要求を実際に通す力をつけた」

 沈は、中国が日本に報復する手段は多くあり、それらを実行するのにためらいはしないとする。「中国人船長の拘留1日ごとに我々の苦痛は深まる」と彼は言う。「だが我々が日本に苦痛を味あわせる方法もある。たとえば日本は今も国連の常任理事国入りを望んでいる。夢だ。決して実現させない」

 沈は日中の閣僚級以上の交流停止について、米中の軍事交流の停止を引き合いに出した。今年1月、アメリカが台湾への65億ドルの武器輸出を決定したのに対する報復処置として中国が発表したものだ。

 とはいえ沈は、漁船をめぐる争いは台湾への武器輸出に比べればはるかに深刻さは浅いとして早期の解決を求めた。

 日中の政府は共に、問題の解決を望む姿勢をそれなりに見せている。だが専門家によれば、どちらも第3者による仲介は望んでいないという。両国とも、紛争解決に実績のある国際司法裁判所の手に尖閣諸島の領有権問題を委ねる気はないようだ。だがたとえ国際司法裁判所が介入したところで台湾が黙っているはずがなく、問題の解決は難しいだろう。

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