最新記事

フランス

サルコジを脅かす執事の盗聴テープ

2010年7月14日(水)18時07分
アン・アップルボム(ジャーナリスト)

陰惨な貴族主義そのままの振る舞い

 事件の当事者たちは、何億ユーロもの大金をモノポリーゲームで遊んでいるかのようにやり取りしていた。彼らは18世紀の喜劇よろしく互いを罵り合った。「農民」たちの年金をカットする一方で、まるで自分たちには適用されないかのように税制度を無視した。

 彼らの発言や振る舞いは、端的に言えば民主主義ではなく貴族主義だ。この点こそが、サルコジに大打撃を与えた。サルコジはもとはといえば、シラクやミッテラン政権下で、愛人や二重帳簿、いかがわしい財界のパトロンなどの存在にうんざりしたフランス国民によって選ばれ大統領だからだ。
 
 この事件は、気味悪いほどレトロな雰囲気を漂わせたスキャンダルでもある。議会制民主主義の力が弱く、ファシズムが台頭し、ソビエトの後押しする共産党が支持を集め、閣僚たちが公費で私服を肥やしていた時代――1930年代のフランスで起こってもおかしくないような事件だ。

 なにしろ、ベタンクールの父、ロレアルの創業者はファシストを支持して親ドイツのビシー政権を支えた人物だ。対照的にベタンクールの娘フランソワーズは、アウシュビッツで死亡したフランス人ラビ(ユダヤ教聖職者)の孫に当たる男性と結婚した。

 不幸にも妻がベタンクール家の会計士に雇われていたブルト労働相(当時は予算相)。国民の間で不人気極まりない年金改革を進めるのが、彼の仕事だ。今週発表される予定の年金改革法案は、労働組合や社会主義者、共産主義者(今でもフランスに存在する)からさえも猛反発を受けることが予想されている。

 大統領選を戦っていたとき、サルコジはこう約束した。「過去の考え、慣習、行動から決別する」――しかし今、そうした過去の「亡霊」がすべてよみがえり、しつこいぐらいにサルコジに付きまとっている。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに大規模攻撃、エネ施設標的 広範

ビジネス

米との通貨スワップ、アルゼンチンの格下げ回避に寄与

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承

ワールド

米航空管制官約6万人の無給勤務続く、長引く政府閉鎖
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中