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アメリカンスタイル?イランでTV討論

大統領選の有力候補アハマディネジャドとムサビが、公開でイランでは珍しい中傷合戦を展開

2009年6月10日(水)16時00分
ババク・デガンピシェ

 イランでは6月3日夜、12日の大統領選を前に候補者のテレビ討論会が実現した。再選を狙うアハマディネジャド大統領とその最大のライバル、ムサビ元首相の直接対決。放送後には、何千人ものテヘラン市民が路上に繰り出し、両候補への支持を叫んだ。

 90分にわたった討論会はアメリカ的で、すぐに中傷と個人攻撃の応酬に発展。政治家がライバルを名指しで批判することが珍しいこの国ではあまり見られない光景だ。

 グレーのスーツとシャツで決めたアハマディネジャドは明らかに居心地が悪そうで、ずっとそわそわしていた。それでも発言は強気で、非難の矛先はムサビだけでなく彼を支持するラフサンジャニ元大統領とハタミ前大統領にまで及んだ。「私の政権が誕生した日から、彼らは手を組んで激しく対抗してきた。私が立ち向かうのは1人の候補者ではなく彼らのグループだ」

 ラフサンジャニやハタミへの批判は通常では考えられない。聖職者である2人への侮辱は犯罪行為にも当たる。しかしアハマディネジャドは攻撃の手を緩めず、ラフサンジャニの息子の汚職を責め立て、ハタミの博士号の学位の正当性に疑問を呈した。

 対して黒のジャケットに水色のシャツ姿のムサビも猛反撃に。アハマディネジャドの「無鉄砲で気取っていて中身がなくて非合法で底が浅い」政治手法を、今こそ終わらせるべきだと主張した。

知名度が低いムサビに貴重な機会

 調子が出てきたムサビは大統領の外交政策を糾弾。独裁者のような振る舞いは間違っていると語り、さらに大統領のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)否定発言で「国の信頼が失われた」と論じた。

 この討論会は、特にムサビにとって重要な露出の場だった。アハマディネジャドに比べ、対立候補らが国営放送で十分に取り上げられていないとの指摘が出ていたからだ。多くの有権者はまだ投票所に行くかどうかすら決めかねていたとみられるので、今回の討論会は大きな意味を持つだろう。

 とはいえアハマディネジャド側も大失態はなく、お得意の芝居がかった演出は相変わらずだった。討論終盤に取り出したのは写真が貼られたファイル。「ここにある人の書類がある。君の知っている女性のものだ」。彼はムサビの妻の学位に疑いを掛け始めたのだ。彼女は著名な文化人で、大学の学長も務めた人物だ。

「私の目の前に妻の写真を突き出して彼女を疑っている」。ムサビは一瞬口籠もり、すぐに切り返した。「これこそ私が変えたい状況だ。こうしたファイルを作り、人を傷つけることだ」

[2009年6月17日号掲載]

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