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オバマよ、ヨーロッパに期待するなかれ

米大統領が欧州の同盟国との外交で成果をあげるには、欧州首脳の反論に耳を傾けすぎないことだ

2009年4月21日(火)15時45分
スティーブン・セスタノビッチ(コロンビア大学教授)

半世紀前と同じ NATO創設60周年を記念し、独仏の首脳らとともに独仏側国境沿いのライン川にかかる「両岸橋」を渡るオバマ(09年4月) 
Jason Reed-Reuters

 欧州各国を歴訪したバラク・オバマ米大統領に対し、同盟諸国は新戦略にもとづくアフガニスタンへの増派をしぶり、金融政策でもアメリカと衝突した。だが、こうした変化に対する拒否反応は、若きオバマに対する警戒感でも侮辱でもない。そして、これで終わるものでもない。

 半世紀以上の間、いい時も悪い時も、ヨーロッパの首脳たちは新任のアメリカ大統領に対し、アメリカの構想は規模も危険も負担も大きいと否定的な反応を示してきた。彼らは常に現状維持を好み、せいぜい段階的な変化しか認めない。だが言いたいことを言ったあとでは、必ず彼らも妥協してくる。

オバマに先立つ4人の大統領はみな、在任期間の初期に欧州の主要同盟国との深刻な意見の対立に苦労した。

 ビル・クリントンは、バルカン諸国の民族紛争を阻止するために積極的なアプローチを取ろうとしたが、ヨーロッパを説得できず、一度は引き下がった。しかし皮肉なもので、2年後にはシラク仏大統領が「自由世界のリーダーは空席なのか」となげき、これを受けてクリントンは決意も新たに軍事介入に踏み切ったのだった。

 その前任者のジョージ・H・W・ブッシュは、初の欧州歴訪でミハイル・ゴルバチョフの「平和攻勢」に対抗するドイツ再統一の大胆な提案をNATO(北大西洋条約機構)の指導者に訴えた。だがヨーロッパ側は、好戦的すぎるとしてこの案を一蹴した。

 それはロナルド・レーガンが大統領就任直後に、70年代の東西緊張緩和路線は破綻したから放棄すべきだと主張したときに受けたのと同じ反応だった。

冷戦時代にも激しい対立

 アメリカがいつも強硬路線で、ヨーロッパが柔軟路線だったわけではない。冷戦時代に最も欧米間が冷え込んだのは、西ベルリンについてソ連と交渉するべきかどうかをめぐって、ジョン・F・ケネディとシャルル・ドゴールが対立したときだった。

 ケネディはこのとき柔軟路線を取った。妥協し、和解することで核戦争の危険性を減らし、アメリカがミサイルの標的になる事態を避けようと望んだ。一方、ドゴールは頑固で、ベルリンを手放すことなどできないと反発した。

 ケネディは激怒し、アメリカは「ヨーロッパからよろこんで手を引く」と警告した。国務長官だったディーン・ラスクは穏やかな人物だったが、それでも怒りのあまり、ドゴールと話すには「大使と精神科医」のどちらが適役なのかと揶揄したものだ。

意見を聞くよりただ告げる

 欧州を信用せず、激しく対立した点で、ジョージ・W・ブッシュとケネディは歴代大統領のなかでも突出している。ケネディは同盟国の政府に機密情報を渡そうとせず、ソ連との交渉に関する指示は国務長官にも口頭で伝えていた。

 ブッシュも、イラク戦争をめぐってフランスやドイツと激しく対立し、欧米間の信頼関係は記録的に低下した。

 対照的に、レーガン、ブッシュ(父)、クリントンは、ヨーロッパ諸国の足下がふらついているのを見抜いていた。だから、アメリカ政府がしっかりしていれば、いずれはヨーロッパ勢もついてくると信じていた。

 この3人の大統領は、同盟国との協議でアメリカの戦略を骨抜きにするような妥協を拒んだ。クリントンはバルカン政策の転換にあたり、アメリカがヨーロッパの意向を聞くより、アメリカの方針を告げるだけのほうがいいという結論に達した。

 この3人はケネディとブッシュ(子)と違って、いたずらに分裂を招くことなく、アメリカの政策に対する同盟国の反対を抑えることができたのだ。

責任ではなく導きがほしい

 第2次大戦終結後の数十年間、アメリカの外交政策の成否は、ヨーロッパの好みをときには無視して、導くことができるかどうかにかかっていた。

 ワシントンが多国間主義について最も声高に主張していた時期でも、これは変わらなかった。たとえば、マーシャルプランの設計者たちは表向き、アメリカの援助をどうするか、ヨーロッパの政府がみずから計画を立ててほしいと発言していた。しかし内心では、ヨーロッパには自分が必要とするものさえ把握できていないと見抜いていた。

 ジョージ・ケナンの言葉を借りれば、当時のヨーロッパは責任ではなく、ガイダンスをほしがっていた。経済はあまりにも疲弊し、政府機関は機能不全、政治家はあまりも視野が狭かった。

オバマ政権の顧問たちに、アフガニスタンやグローバル経済に対するヨーロッパの政策をどう思うか、内緒で聞いてみればいい。たいてい、半世紀前と同じ答えが返ってくるはずだ。

 オバマの欧州歴訪が中途半端な成果しか生まなかったことに、新政権の弱点、あるいは国際的な勢力バランスの変化を見いだす人もいるだろう。

 だが、以前からのシナリオもまだ生きている。ヨーロッパ人はオバマよりそのことをよく知っているはずだ。彼らは常に、新任のアメリカ大統領には肘鉄をくらわせる。そして、やはり自分だけではうまくいかないと気づくと、考えを改めるのだ。

Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 04/2009. (c) 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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