最新記事
アフガニスタン

タリバンを抱き込む6カ条

オバマは増派よりも周辺国を巻き込んだ政治的和解をめざせ

2009年4月7日(火)10時58分
ラジャン・メノン(米リーハイ大学教授)

遠い道のり アフガニスタンの国土はあまりにも広大だ
Bob Strong-Reuters

 アフガニスタンに1万7000人の米兵を増派するというバラク・オバマ米大統領の決断は、泥沼にはまりこんだアメリカをさらなる深みに突き落とすだろう。増派の目標が明確でないうえに、アメリカの景気は悪化の一途をたどり、他のNATO(北大西洋条約機構)加盟国の増派も期待できないからだ。

 兵力を増強すればタリバンを撃退できるという論理も疑わしい。駐留米軍の規模は今年末までに6万人になる。アフガニスタン国軍と国際治安支援部隊(ISAF)の力を借りるとしても、65万平方キロに及ぶ国土をカバーすることは到底できない。面積がアフガニスタンの3分の2のイラクでも、ピーク時の米軍の規模は14万人だった。

 こうしたことから米軍の上層部がさらなる増派を求めるのは確実だ。アフガニスタンの反政府武装勢力は国内のほぼ全域で活発に活動している。それにイラクと異なり、隣国には安全な潜伏先があり協力者がいる。

 地上作戦と空爆を強化すれば一般市民の犠牲者増加は避けられまい。そうなれば市民の反米感情が高まり、タリバンに有利に働く。またアメリカの無人機がパキスタン国内の潜伏先を爆撃すれば、パキスタン国民のなかで主権侵害だとの反発が強まり、過激派に同情が集まりかねない。

 必要なのは、オバマ自身が言うように政治的解決策を探ることだ。そのためオバマは以下の6つの行動からなる計画を検討すべきだ。

■米軍はアフガニスタンに永続的に駐留するつもりはなく、交渉による和解が成立すれば段階的に撤退する用意があることを明言する。そうすれば「アメリカはアフガニスタンを長期的に占領したがっている」というタリバンの主張にも対抗できる。

■タリバンに停戦を提案する。現在アフガニスタンのかなりの地域を実効支配しているタリバンだが、大きな傷も受けている。政治的和解の機会があれば歓迎するかもしれない。タリバンは一枚岩ではない。穏健派を見つけ出すためにも対話を提案するべきだ。

■ 停戦を機にロヤ・ジルガ(国民大会議)の開催を提案する。ロヤ・ジルガは、国内のあらゆる地域・民族の代表者が集まる会議で、そこに停戦を受け入れたタリバンのメンバーも参加させる。現在の政治システムは機能不全に陥っているから、歴史的に唯一うまくいった伝統的なやり方を復活させるべきだ。

■近隣諸国を巻き込む。近隣諸国にとってもアフガニスタンの安定は大きな利益だ。

 イランにとってスンニ派原理主義のタリバンは不倶戴天の敵だし、ロシアと中国はアフガニスタンとパキスタンからイスラム原理主義が流入するのを恐れている。かつてタリバンを支援したパキスタンの軍部と情報機関も、自分たちが怪物を生み出したことに気づきつつある。インドは、アフガニスタンとパキスタンがイスラム原理主義者に支配され、インドでもっとテロを起こすことを懸念している。

オバマは思い切った政策転換を

■アフガニスタンに介入したり攻撃しないことを近隣諸国とともにアメリカも約束する。ただしアフガニスタン政府が、アルカイダなどのテロ組織を保護しないことが条件だ。タリバンが停戦を守る限り、アメリカもパキスタン国内への無人機爆撃を中止する。

■アフガニスタンの長期的な復興を支援し、パキスタンの生活水準を改善するための国際的な枠組みを作る。

 これらの行動が功を奏さなくても、アメリカに失うものはない。そうなったところでオバマには自由に動かせる6万人の兵力が残っている。タリバンとの交渉は大きな政策転換には違いないが、オバマもデービッド・ペトレアス中央軍司令官も、穏健派武装勢力との対話を検討すると以前からほのめかしている。

 アフガニスタンに民主主義が根づき、経済復興が軌道に乗るまで米軍は駐留するべきだという声もある。女性や少数派の権利がきちんと守られる体制作りはアメリカの責任だという意見もある。

 だがアメリカにそうした成果まで期待できるかといえば不透明だ。社会変革のための戦争など反発を生むだけだ。だからアメリカは、テロ組織とイスラム過激派の封じ込めに集中するべきだ。

 大統領選挙の最中にオバマはアメリカの敵と交渉すると公約した。大統領となった今、アフガニスタンでその言葉を実行するチャンスがやってきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中