最新記事

ジェンダー

「ターフ/TERF」とは何か?...その不快な響きと排他性の歴史

Material Girls

2024年09月26日(木)15時00分
キャスリン・ストック(元イギリス・サセックス大学教授)
Girls

geralt-pixabay

<「ターフ(TERF)」という概念はいかに発明されたのか? 本書によって職を追われたイギリス・サセックス大学の元教授キャスリン・ストックの話題書『マテリアル・ガールズ』より>

newsweekjp_20240924123512.png

多様な「性」を尊重する社会づくりが世界的に進む一方で、複雑化した「ジェンダー概念」への理解が追いつかず、社会的混乱が起きている。

生物学的性別よりもジェンダーを優先する、いわゆる「ジェンダーアイデンティティ理論」が生まれた思想的背景を、ボーヴォワール、ジュディス・バトラーなどを振り返りながら丁寧に説明した本書。

しかし、その本を刊行したことによって辞職に追い込まれた、キャスリン・ストックの話題書『マテリアル・ガールズ:フェミニズムにとって現実はなぜ重要か』(慶應義塾大学出版会)より一部抜粋。

一部のフェミニストは他者を糾弾してキャンセル活動に勤しむなど、なぜここまで排他的なのか? その思想の背景について。


 
◇ ◇ ◇

「ターフ」という概念が発明された

2000年代後半から、ジェンダーアイデンティティ理論に対する知的な批判は、すべて偏見に満ちた立場から生まれているという理由で否定されることがますます一般的になってきた。

ジュリア・セラーノは『ウィッピング・ガール』のなかで、自分の考えに対して起こりうる反論は、「トランスフォビア」、「ホモフォビア」、「トランス・ミソジニー」、「逆性差別」、「ジェンダー不安」の産物であるとして、さまざまに否定している。

2009年のインタビューのなかで、ジュディス・バトラーは「『トランス女性』の生きた身体性を拒絶するフェミニスト警察」について語り、そういう人びとの主張を「トランスフォビックな言説」で、「身体切除」の一形態と呼んでいる。

イギリスの運動団体ストーンウォールのオンライン用語集は現在、トランスフォビアを次のように定義している。

「トランスであるという事実に基づいてだれかを恐れたり嫌ったりすること。それには、ジェンダーアイデンティティを否定したり、受け入れることを拒否したりすることが含まれる」(強調は引用者)。

これを省略抜きに説明すればこうなるだろう。ストーンウォールの定義は、「ジェンダーアイデンティティを否定すること」や「それを受け入れないこと」を、それがどのような理由からのものであれ、すべて恐怖や嫌悪から生じるものとして明確に位置づけるものである、と。

たとえジェンダーアイデンティティ理論の知的な背景を考察した結果、それには欠陥があると感じ、そのことを理由にジェンダーアイデンティティを「受け入れない」という場合であっても、本当の理由はもっと深い恐怖や嫌悪にあるはずだ、というのである。

2008年、ジェンダーアイデンティティ理論の批判者の動機を貶(おとし)める動きは、「ターフ」という用語の発明によって大いに弾みがついた。

ターフとは「トランス排除的ラディカル・フェミニスト(Trans Exclusionary Radical Feminist)」の略語(TERF)であり、アメリカのヴィヴ・スマイスの造語と言われている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中朝首脳、国交樹立75年で祝電 関係強化を表明

ワールド

仏大統領、ガザで使用の武器禁輸呼びかけ イスラエル

ワールド

世界各地で反戦デモ、10月7日控え ガザ・中東戦闘

ビジネス

中国住宅販売、国慶節連休中に増加 景気刺激策受け=
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    メーガン妃は「ヒールを履いた独裁者」...再び非難を…

  • 2

    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…

  • 3

    アダルトサイトを見ているあなたの性的嗜好は丸裸 …

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサ…

  • 1

    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…

  • 2

    「カジュアルな装い」で歩くエムラタが、通りすがり…

  • 3

    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…

  • 4

    メーガン妃は「ヒールを履いた独裁者」...再び非難を…

  • 5

    アダルトサイトを見ているあなたの性的嗜好は丸裸 …

  • 1

    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…

  • 2

    「制服」少女たちが受ける不快すぎる性的嫌がらせ

  • 3

    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…

  • 4

    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:大谷の偉業

特集:大谷の偉業

2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか