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尊敬する人にストーカーされたら......「同意」に隠されたワナが女性を傷つける

Crossing the Line

2019年10月16日(水)18時30分
ドナ・フレイタス(作家、研究者)

なぜ今になって回想記を発表したのか。フレイタスによれば「これ以上の沈黙は有害」と考えるからだ。以下は同書からの抜粋である。

私はこのことを話してはいけないことになっている。私が在籍していた大学院は、指導者の嫌がらせをやめさせ、わずかな金をくれた。私は引き換えに、これから伝えようとしていることが起こらなかったふりをすることに同意した。

私は全ての不正行為を免責することに同意した。永遠に沈黙することに同意した。自分が何をしようとしているのか、何に署名しようとしているのかを考える余裕はなかった。

【参考記事】女が醜いからレイプ男は無罪?

当時の私が求めていたのはただ、この男、私の指導教官であるはずのこの男、大学院生活を通じて私を導き、将来のための指導を仰ぐつもりでいた男がいなくなることだった。

あの男から解放されるためならば、求められるままに何でも手渡そうと思った。

すると大学側は、私の「声」をよこせと言った。

だから私は声を与えた。大学の人事課で自分の舌を切り取り、係の女性に渡した。私は自分自身を切断した。出血にも気付かなかった。当時授業のために読んでいたフェミニストの理論によれば、女性が持つ最も重要なものを差し出した。

奪われた女性たちの声

かなり後になるまで、私は自分に対して犯した罪に気付かなかった。人事部の部屋で向き合った人たちが、学生の体を犠牲にして大学と教師を守るために働いているのだとは、当時の私は知らなかった。

しかし、こんな経験は私だけのものではない。全国各地の大学に、あらゆる規模と種類の職場に、善良な企業市民を自称する会社のどこかに、発信されなかった女性の言葉でいっぱいのファイルキャビネットがある。彼らは私たちから声を奪い、傷つけることが通常の業務であるかのように振る舞う。

女性の舌は、そのままにしておくと危険だ。大学も役所も企業も昔からそれを知っており、だから舌を奪おうとする。そして私たちは舌を没収される。その代わり彼らは私たちにお金を払って黙らせる。でも黙るものか。自分の舌は取り返す。

取り戻した舌の感触にまだなじんでいない。厚ぼったい舌が口の中にあるのは奇妙な感じだ。

教授の行為に疑念を抱き始めたのは、教授が不意に私のアパートに現れたときだった。当時の私は半地下の部屋に住んでいて、窓の高さが歩道と同じだった。玄関の郵便受けの隙間から郵便物を取ろうとして、上から私を見下ろす教授の姿を目にしたとき、私は驚いて跳び上がった。教授は笑っておらず、手も振らなかった。

「近所に来たのでね」と、私の部屋に入った教授は説明した。その日ジョージタウンで会議があったと、彼は言った。

【参考記事】レイプ事件を届け出る日本の被害者は氷山の一角

ずっと後になって思い出したのだが、教授に自分の住所やアパートへの道順を教えたことは一度もない。彼は大学院にある私の個人ファイルを見て、住所を調べたに違いない。彼は私の指導教官で、当時は学部の責任者でもあったから、どんな情報にもアクセスできた。

大学院の1年目はあっというまに過ぎ去った。教授はやたらに電話をかけてきた。以前の半地下のアパートにも、引っ越した先にもかけてきた。

私は教授に自分の電話番号を教えたことはない。それには気付いていたが、その疑問を、教授がなぜか私の新住所やスケジュールを把握しているという不穏な事実とともに、心の奥底に封じ込めてしまった。

その夏、教授は新しい住所に手紙を送ってきた。電話もあった。時には毎日、時には1日2回以上。手紙の数も増え、1日3通来ることもあった。

手紙の山は100通ぐらいになり、ほとんどが未開封のまま、窓辺に積み上がった。私はやがて手紙の山を見るのが嫌になった。からかわれているように思えたからだ。手紙の山が大きくなり過ぎたため、私はある日、オフィスのゴミ箱を持ってきて大量の手紙を放り込んだ。

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