最新記事

米赤字削減

共和党の財政再建案に隠された階級戦争

共和党の元副大統領候補ライアンの財政再建案は金持ち優遇の格差拡大策

2013年3月13日(水)18時01分
マシュー・イグレシアス

福祉切り捨て ポール・ライアンの財政均衡策で負担が増えるのは中・低所得層 Fahad Shadeed-Reuters

 共和党の副大統領候補だったポール・ライアン下院予算委員長は、ウォールストリート・ジャーナル紙に論説を寄せ、「財政均衡のために重要なのは実行であって、手段の是非ではない」と訴えている。「手段は問わない」と政治家が言うときほど、「手段」に何が隠れているか注意するべきだろう。

 ライアンの財政再建案もまさにそうだ。そのまま実行に移せば財政は均衡するだろう。だがそれは、少数の金持ちの利益を守るために中・低得階層を狙い撃ちにする彼一流のやり方を通じてだ。

 共和党の財政赤字削減案らしく、ライアンの案もまず大減税ありきだ。彼は今の累進税制を10%と25%という2段階の税率に変えようとしている。40万ドル以上の所得があり39.6%の所得税を払っている人には大減税になるが、所得が7万ドルで税率がぎりぎり25%の範囲に留まっている人には増税になる可能性が高い。

 ライアンはミット・ロムニーとともに大統領選挙を戦ったときにも金持ち減税を提案した。だが今回は金持ち減税とは言う代わりに漠然とした税制改革を隠れ蓑にすることで、高所得者への大減税を可能にしようとしている。

 この財政再建案の詳細はまだ不明で、正確な結果は予測しがたい。しかし2012年のブルッキングズ研究所のサミュエル・ブラウン、ウィリアム・ゲール、アダム・ルーニーは、ロムニーとライアンの税制改革は年間所得10万ドル以下のほとんどの世帯で増税になると報告した。ライアンの新たな改革案についてもいずれシンクタンクが検証するだろう。

 富裕層や高所得者への減税、中間層への増税以外に、貧困層への福祉の削減も予想される。メディケイド(低所得者医療保険制度)の拡大なんて夢のまた夢。医療保険法では、連邦政府が定めた貧困ラインの4倍(個人所得4万5960ドル、3人の世帯所得で7万8120ドル)未満の所得しかない人も医療保険に加入できるよう、所得に応じた補助金を出している。だがライアンの案が通ればこの補助金も廃止されるだろう。

 ライアンは「メディケイドについては州に裁量を委ねる」と言うが、つまりこれはメディケイドの受給資格を無効にする裁量を州に与えることを意味する。「住民ごとの必要性に対応するため、州にフードスタンプ(食糧配給)制度に対する裁量を与える」とも言うが、これもつまり州に給付削減の裁量を与えるということだ奨学金も削減されるだろう。

 長い目で見れば、メディケイドなどの支出抑制は重要な問題だ。だが10年以内にそれをやるということは、財政均衡の名の下に、富裕層の税金を減らして、中所得層に増税し、労働者層や貧困層向けの福祉も減らすことに他ならない。今後長期に渡って格差を今より拡大しようとする案だからこそ、ライアンは「手段」について話したがらないのだ。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中