最新記事

アメリカ政治

オバマは第2のフーバーか

一般教書演説では国民に不人気な財政赤字の削減を約束する予定だが、政治的にも経済的にもさらなる失策を重ねることにならないか

2010年1月27日(水)18時16分
マイケル・ハーシュ、ケイティー・コノリー(ワシントン支局)

いばらの道 オバマの赤字削減策は左派からも右派からも批判される可能性が高い(写真は1月5日) Kevin Lamarque-Reuters

 バラク・オバマはどんな人間になりたいのか、本気で考えるべきだ。

 オバマは第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトをロールモデルと仰ぎ、第2の世界恐慌からアメリカ経済と世界を救おうとホワイトハウスに乗り込んだ。そればかりか、ある意味ではルーズベルトをしのぐ成果を上げたいとさえ願っていた。

 オバマは、ルーズベルト政権が1937年に犯した過ちを繰り返してはならないと警告し続けてきたティモシー・ガイトナーを財務長官に任命した。世界恐慌を受けてニューディール政策が進んでいた37年当時、ルーズベルト政権は経済が完全に立ち直っていない段階で財政支出を大幅に切り詰め、公定歩合を引き上げた。米経済は再び厳しい不況に陥った。

 現在、多くのエコノミストが政府のさらなる経済刺激策がないかぎり、景気は回復しても雇用は増えない状況が続くと指摘しているが、オバマがめざすのは37年のような緊縮財政策だ。いや、それどころか、恐慌下になお財政均衡にこだわり、景気をさらに冷え込ませた第31代大統領のハーバート・フーバー(1929〜33年在任)をモデルにして、財政赤字削減に取り組もうとしているのかもしれない。

赤字削減効果は少ないとの指摘も

 1月27日に行われる一般教書演説の内容が少しづつ、ホワイトハウスから漏れ聞こえてくるが、今のところ最も注目すべき話題は、安全保障分野以外の裁量的経費(政府や議会の政策判断で加減できる予算)を3年間にわたって現行水準で凍結する方針を、オバマが打ち出すことだ。

 国防総省、退役軍人省、国土安全保障省、外交関連の予算は凍結の対象にならない一方、国内支出は徹底的に精査される。ただし、支出が最も大規模かつ急速に拡大しているメディケア(高齢者医療保険制度)やメディケイド(低所得者医療保険制度)、社会保障などの給付金制度は凍結されない。

 オバマの狙いは、恐ろしいほど巨額の(そして政治的にも恐ろしいほど不人気な)財政赤字を削減すること。もっとも、意図はわかるが、実際の赤字削減効果は薄い。

 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、削減が見込まれるのは2500億ドルで(それでもすごい額に思えるが)、今後10年間に見込まれる9兆円の赤字のわずか3%程度。実際に予算のどの部分が削られるかはわからないが、政府関係者によれば雇用創設プロジェクトのような新たな取り組みが阻止されることはなく、無駄や非効率な出費が削減されるという。

 この情報がリークされたのは明らかに、オバマが財政赤字に強い姿勢で臨むと示唆するためだ。だが、その戦略はおかしい。

 裁量的経費の凍結は左派を激怒させる。彼らは08年の大統領選挙中にジョン・マケインが似たような提案をした際に、反対運動を展開した。テレビ司会者のレイチェル・マドウは番組中で、政府の国内支出の不足が日本の「失われた10年」を生んだと指摘し、支出を抑制するというフーバーの「愚かな」政策によって世界恐慌は一段と悪化したと語った。

 非効率な支出の大半が議員の強力な利益誘導の結果であることも、左派は理解している。わかりやすい例が農業関連の補助金だ。財政政策に関する穏健派の議員らもこの問題になると態度を豹変させ、農業市場への政府に介入を強力に擁護する。

 裁量的経費の凍結を実行した張本人という立場に立たされる民主党議員らは、党内のこうした声にまったく反対しようとしない。その結果残るのは、声なき人々、つまり貧困層の生活に影響する政策。凍結案が左派にとって許しがたいものであるのは、そのためでもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中