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ペイリン「私は母親業で政治を学んだ」

著書で、自分は無知と開き直ったペイリン。去年、彼女を副大統領候補に担ぎ、今も支持する人々がいる危うさ

2009年11月18日(水)17時52分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

素人ぶり全開 11月17日に発売された回顧録『ならず者として生きる』 Larry Downing-Reuters

 私はサラ・ペイリン前アラスカ州知事の回顧録をまだ読んでいないし、読むつもりもない。だが、11月14日付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載された文芸批評家カクタニ・ミチコの書評には興味をそそられた。


『ゴーイング・ローグ(ならず者として生きる)』では、財政規律や力強い外交政策には一応触れた程度で、エネルギー自給の重要性に語るときほどの情熱は感じられない。

 だが、自分の最大の魅力についてはざっくばらんに、子供を応援する「ホッケー・ママ」の一人という気取らない普通さにあると書いている。中東情勢やイラク戦争、イスラム政治などについてとくに詳しいふりをするわけでもない。「紛争の歴史があることは知っていた」と、彼女は書く。「大半のアメリカ人が知っている程度には」

 そしてこう主張する。「母親業より優れた政治修行の場はない」

 08年のアメリカ大統領選挙で共和党の大統領候補だったジョン・マケイン上院議員はそれでも、こんな素人(ペイリンはアラスカ州知事になって2年も経っていなかった)を副大統領候補に選んだ。この驚くべき決断は、インターネットや携帯電話で誰もが情報にアクセスできる時代になって、専門知識が危険なまでに軽視されるか、エリート主義と同一視されるようになった証拠だ。そして、変化に富んだ面白い人生が、いかに政策論議や実際の知識を圧倒しかねないかという警告だ。

 カクタニは正しいと思うが、マケインやペイリン、彼女の支持者を含む多くの人々が、外交政策の切り盛りは無知でもできると考えているようなのが不思議でならない。ペイリンだって、子育ての経験や面白い人生経験の持ち主だというだけの人に子供の手術を任せようとはしないだろう。重要な仕事のために人を雇うとき、普通は誰もが本物の専門知識をもった人を探す。だがこの国では多くの人が、我々の共同体としての将来を左右する重大な決定を、自分は無知だと開き直っている人々の手に委ねても構わないと思っているようだ。


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 18/11/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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