最新記事

米外交

オバマも絶句、カダフィのトンデモ演説

両首脳の歴史的握手からわずか2カ月、米政府はリビアとの関係正常化を本気で後悔し始めた

2009年9月24日(木)17時36分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

不安的中 国連総会でのカダフィの演説はやはり常軌を逸していた
Ray Stubblebine-Reuters

 リビアの最高指導者ムアマル・カダフィ大佐との「関係正常化」は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領のもとでの大きな外交成果と謳われ、バラク・オバマ大統領にも引き継がれてきた。だが23日の国連総会におけるカダフィの常軌を逸した演説を聞くと、この政策はこれまでになく危なっかしいものに思えてくる。

「なぜわれわれはタリバンと対立しているのか? なぜアフガニスタンと対立しているのか?」と、120以上の国々の首脳を前にカダフィは問いかけた。「もしタリバンが宗教国家を作りたがっているならそれも結構。バチカンのようなものだ。バチカンはわれわれにとって危険な存在か?」

 これに先立ち、アメリカのジョン・ブレナン大統領補佐官(テロ対策担当)とデニス・マクドナー大統領次席補佐官(国家安全保障担当)は、88年に英スコットランド上空で起きたパンナム機爆破事件の犠牲者の遺族と面会した。遺族会のフランク・ダガン会長とキャシー・テデスキ副会長によれば、ブレナンとマクドナーは爆破事件へのリビアの関与を明確に示す米政府の資料の公開に向けて努力すると約束したという。

 爆破事件の裁判ではリビアの元情報部員、アブデル・バセト・アルメグラヒが実行犯として有罪判決を受けたが、イギリスや一部のアメリカのメディアでは冤罪説が伝えられている。遺族たちはこの説を否定するため、FBI(米連邦捜査局)やCIA(米中央情報局)が集めた捜査資料の公開を求めているとダガンは言う。

 ダガンによれば、ブレナンらは遺族会に対し「政府は、アルメグラヒが無実だとする数多くのでっちあげと戦うため、積極的な役割を果たすつもりだ」と述べたという。ホワイトハウスの広報官はブレナンとマクドナーが22日夜に遺族会と会ったことは認めたが、話し合われた内容についてはコメントしなかった。

帰国したテロ犯を熱烈に歓迎

 カダフィの国連総会出席が議論を巻き起こすだろうということは、何カ月も前から予想されていた。だがカダフィの初の訪米に対する強い反発が起きたのは、スコットランド当局が8月に末期癌であることを理由にアルメグラヒを釈放したことがきっかけだった。リビアに帰国したアルメグラヒは英雄のような歓迎を受けたのだ。

 アルメグラヒの釈放にアメリカの捜査関係者は激怒し、カダフィ政権との関係改善という政策にあらためて疑問をいだいた。ちなみにこの政策の背後には、アメリカの石油会社をはじめとする経済界の意向があった。

 リビアとの関係正常化に着手したのはブッシュ政権だ。03年にカダフィが大量破壊兵器の開発計画放棄を発表したことを受け、ブッシュは国際社会で長年孤立してきたリビアを「アフリカと中東の安定の源になりうる」と評価した。

 リビア政府は同年、パンナム機爆破事件の遺族に補償金を支払うことでも合意。06年にはアメリカ政府による「テロ支援国家」の指定も解かれた。

 この政策はオバマ政権にも引き継がれ、7月にジェフリー・フェルトマン国務次官補代行(中東担当)がリビアの首都トリポリを訪れ、北アフリカにおけるテロとの戦いのため、リビアとの軍事協力を拡大したいと表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中