最新記事

米政治

性スキャンダルはオバマの「生みの親」

不倫旅行が発覚したサンフォード知事だけではない。オバマが大統領になるまでには、共和党の際限ないセックススキャンダルが追い風になってきた

2009年6月30日(火)17時33分
ジョナサン・オルター(本誌コラムニスト)

政治生命の終焉 不倫旅行を認めたことでサンフォード知事が次期大統領選でオバマの対抗馬になる可能性は消えた Erik Campos-Reuters

 サウスカロライナ州知事のマーク・サンフォードは、知的でハンサムで節度ある人間だ。だがもはや、2012年の大統領選でバラク・オバマの脅威にはなりえない。

 アルゼンチンに不倫旅行に出かけていたことを認めたサンフォードは、共和党全国知事大会の会長職を辞任。次期大統領選での共和党の有力候補という下馬評も吹っ飛んだ。

 だが、サンフォードの痛恨のミスは、オバマにとっては嬉しいニュースだ。私の計算では、オバマは過去にも10回以上、他人のセックススキャンダルで得をしてきた。幸せな結婚生活を送っているオバマは、常に他人のスキャンダルでポイントを稼いできたようだ。

 オバマがセックススキャンダルで初めて政治的な利益を得たのは、シカゴ南部の貧民街で働いていた1995年。地元選出の下院議員メル・レイノルズが16歳の女性選挙スタッフと性的関係をもち、有罪判決を受けた。州議会議員のアリス・パルマーがその議席をねらって補欠選挙に出馬し敗退すると、オバマはパルマーから州議会議員の椅子を奪い、政界進出を果たした。

 ビル・クリントン元大統領とモニカ・ルインスキーのスキャンダルも、オバマの後押しをした。クリントンがズボンのファスナーを下げていなければ、副大統領だったアル・ゴアは2000年の大統領選でほぼ確実に勝利していた(対抗馬のジョージ・W・ブッシュは「大統領執務室に名誉と威厳を回復しよう」と訴えて勝利した)。

 もしゴアが大統領を2期務めていたら、08年の大統領選ではアメリカ国民は違う形のチェンジ、つまり共和党政権を望んだだろう。モニカがいなければ、オバマもいなかったわけだ。

上院議員予備選で政敵のDV発覚

 クリントンの不倫ドラマにはおまけがあった。疑惑を追及していた共和党のニュート・ギングリッチ下院議長も、スタッフと不倫していたことが発覚。さらに、下院でクリントンの弾劾決議案が採択されるわずか数日前、後任の下院議長就任が決まっていたボブ・リビングストンの愛人問題が暴露され、議員辞職に追い込まれた。

 スキャンダルのダブルパンチで共和党の評価は地に落ちた。その後、下院議長に就任したデニス・ハスタートにはギングリッチほどの指導力はなく、共和党は徐々に議席を減らし、06年の中間選挙では民主党が下院の過半数を制した。

 民主党の勝利には多くの要因があったが、最もよく指摘されるのはフロリダ州選出の下院議員マーク・フォーリーが少年にわいせつなメールを送っていた事件だ。中間選挙の数週間前に発覚したこのスキャンダルによって、共和党は12議席を失ったとの試算もある。おかげでオバマは現在、民主党優位の下院に対して強気で法案を回すことができる。

 もっとも、さらにいくつかのスキャンダルがなければ、オバマは大統領はおろか、上院議員にも選出されていなかっただろう。

 州議会議員だったオバマは04年、イリノイ州の民主党上院議員選の予備選に出馬したが、大富豪のブレア・ハル相手に苦戦していた。オバマは、この選挙に敗れたら政界から引退すると妻ミシェルに約束していた。そこへ、ハルの妻が離婚協議のなかで夫に暴力を振るわれたと申し立てていたことが発覚。形勢は一変し、オバマは予備選を制した。

他人の前のセックスやわいせつ行為も

 続く上院選挙でオバマと対決したのは、共和党候補のジャック・ライアン。著名な銀行家で、勝利は確実と思われていた。ところが妻でテレビ女優のジェリ・ライアンが、他人の前でセックスするよう夫に強要されたと発言。ライアンは選挙戦から撤退し、オバマは後がまの弱小候補を簡単に破った。

 08年の大統領選の予備選では、映像製作者と不倫していたジョン・エドワーズが、2月のスーパーチューズデイを待たずに早々に撤退を表明した。当時はまだ不倫は報じられていなかったが、政治キャスターのジョージ・ステファノポロスによれば、民主党の正式候補になった後で発覚した場合、11月の本選挙で政権を奪取するチャンスがふいになるとして、選挙参謀がエドワーズに早期撤退を促したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・メキシコ首脳が電話会談、不法移民や国境管理を協

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中