最新記事
宇宙開発

燃焼試験失敗の「イプシロンS」...爆発までにたどった「詳しい経緯」が明らかに

2024年12月25日(水)18時55分
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)

JAXAの井元隆行プロジェクトマネージャは、前回の燃焼試験での爆発原因である「点火装置(イグナイタ、イグブースタ)の一部が熱で溶けて機体内部に飛び散り、圧力容器内の断熱材を損傷した」ことは今回は起きていないと説明し、「後方から爆発したなど前回と共通点もあるので、同じ原因があるのか異なるのか先入観なく調査していきたい」と話した。

今後は、燃焼試験失敗を検証し、調査結果を反映して試験設備の復旧、再々試験を設定する。その結果を踏まえてフライト用モータの制作、ロケットの組み立てと進む。

岡田理事は、「各段階に要する期間を考えると、イプシロンSの今年度中の打ち上げはできない。先週、JAXA内の最高意思決定機関である理事会議でも正式に確認した。イプシロンSが失敗続きだと、若いロケット技術者の意欲への影響も心配だ。彼らにはぜひ早く成功体験をしてもらいたい」と述べた。

なお、イプシロンSと一部共通部分のあるH3ロケットについて、岡田理事は「共通しているのは素材に近いところで、両者の設計はかなり違う。H3は地上試験3回、フライトは8回している。イプシロンSの燃焼異常を反映する必要はない」と改めて強調した。


イプシロンSロケット
JAXAとIHIエアロスペース(東京都)で共同開発した3段式小型固体燃料ロケット。大型液体燃料ロケット「H3」と固体ロケットブースター(SRB-3)を共通化することでコスト低減、打ち上げ頻度増加を図り、小型衛星打ち上げビジネス参入で国際競争力を高めようとしている。

weboriginak20210521baeki-profile2.jpg[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版のウェブ連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

ニューズウィーク日本版 トランプ関税15%の衝撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月5日号(7月29日発売)は「トランプ関税15%の衝撃」特集。例外的に低い税率は同盟国・日本への配慮か、ディールの罠

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは150円半ばで上昇一服、米雇用統計

ワールド

石破首相「影響緩和に万全尽くす」、相互関税の米大統

ビジネス

関税による輸出採算悪化、賃上げへの影響に不確実性=

ワールド

インド製造業PMI、7月改定値16カ月ぶり高水準 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中