最新記事

テクノロジー

世界一を狙わなかったスパコン富岳が、結果的に世界4冠を獲得できた意外な理由

2021年4月25日(日)19時10分
小林雅一(作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

米中覇権争いは次世代スパコンでも......

そして今、世界のトップ・スパコンは「ペタ」から「エクサ(1000ペタ)」への世代交代を迎えようとしている。早ければ2021~22年頃の完成をめざして、米国や中国が現在開発を進めている次世代スパコンは、(どちらが先に完成するかはわからないが)世界で初めてエクサ・フロップスの壁を突破すると見られている。

これに対し富岳の計算速度(20年11月に発表された実測値)は、442ペタ・フロップスと「エクサ」には達していない(前述のHPL-AI部門におけるエクサ達成は「半精度演算」と呼ばれる特殊なケースなので、残念ながらTOP500のようなスピード競争の記録には含まれない)。またスパコンに搭載されるCPUの総数やその動作周波数などから理論的に算出される「ピーク性能」でも、富岳はエクサ・スケールに届かないことが確定している。

books20210424.jpgこれについて理研の松岡センター長をはじめ富岳の関係者は「今時、単なる計算速度にこだわることは、実用的な観点からはナンセンス」と見ている。

しかし、こうした「スパコンのスピード競争」を、ある種の国際ゲームのような感覚で捉えるならば、ペタからエクサへの世代交代はそれなりの意味がある。ちょうど、4年に1度のオリンピックやパラリンピックにおける獲得メダル数を各国が競い、自慢し合うのと同じような感覚だ。

特に米中両国は今、AIやバイオなど先端技術の分野で激しい開発競争を繰り広げており、それらの科学研究を支えるコンピューティング基盤として、スパコンの計算速度は象徴的な意味を持つ。つまり(TOP500で)エクサ・スケールの壁を世界で初めて突破したスパコンを開発した国が、来る世界のハイテク覇権を握るというわけだ。

小林 雅一(こばやし・まさかず)

作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授
1963年、群馬県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科・修士課程を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学、マスコミュニケーションの修士号を取得。ニューヨークで新聞社勤務、帰国後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとった後、現職。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売業者、感謝祭用にお得な食事セットを宣伝

ワールド

カナダ、はしか排除国認定を30年ぶり失う=汎米保健

ワールド

米国は「経済的大惨事」に、関税違憲判断なら トラン

ワールド

ロシア、戦争終結の取り組み「行き詰まり」 ウクライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中