最新記事

テクノロジー

人類のあらゆる知識を、宇宙や海底で永久保存

Permanent Record

2019年8月14日(水)15時00分
ジュリアナ・ピニャタロ

スピバクは人類の知識を全て保存するつもりだ ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<地球に何が起きても消えないよう人類の知識すべてを耐久素材に刻み残す試み>

起業家ノバ・スピバクの夢はSFさながらだが、彼は本気で実現させるつもりだ。IT業界で成功した彼が率いるのは、アーク・ミッション財団(アークは「アーカイブ(保存記録)」の略)。この非営利組織の目標は、人類の知識の全てを「バックアップ」することだ。

あらゆる情報をニッケルなどの耐久素材に技術を駆使して極小サイズで刻み付け、長期間安全な場所に保管することを目指している。候補地は海底、あるいは月などだ。本誌ジュリアナ・ピニャタロが話を聞いた。

◇ ◇ ◇

──なぜそんなことをするのか。

人類史における芸術的、科学的成果は全て、今のところプラスチック媒体か紙に記録されている。私たちはこれを保護し、保存するよりよい方法を開発した。何十億年という進化の過程で生み出された、多様性に富む生物形態という生物学的遺産も記録したい。地球が何かしらの大惨事に見舞われたら、これらは全て永久に失われてしまう。

──それらの全情報をどうやって保護するのか。

「10億年アーカイブ・イニシアチブ」と名付けた戦略を取っている。地下深い洞窟や深海底など、遠い未来の知的生物が探し当てるだろう数千カ所の地点に記録を保管する。現在の私たちが知っていることと、私たちと同じ失敗を犯さずに済む方法を彼らに伝えるために、保存する必要がある。

──発見した者がそれらを解読できるという保証は?

知識を視覚的に記録する。全てを図形や絵を使って伝えるのだ。そこには現代の私たちが持つ膨大な知識が極小規模で刻まれ、コンピューターがなくても顕微鏡で読み取れるようにする。コンピューターの作り方も伝え、そこからも大量の情報が伝わる。

──これまでどこに保存したか。これから狙うのは?

最初のミッションとして、イーロン・マスクと彼のスペースX社と協力し、ロケットで打ち上げられて太陽を周回するテスラ・ロードスターにクオーツ結晶に刻み付けたデータ(SF作家アイザック・アシモフの作品も含まれる)を積み込んだ。3000万年は残り続けるだろう。低軌道衛星にウィキペディアの記録も積んだ。月面着陸の計画もあるし、地球と月の間で重力の均衡が保たれた「ラグランジュ地点」での「惑星間インターネット」の構築も考えている。

──惑星間インターネット?

地球、月、火星で情報を同期化するアイデアだ。例えば遠い将来、火星への移住が行われたとして、不測の事態で地球との通信が途絶えてしまったとき、バックアップが必要だろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 7
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 8
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中