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「着物の未来をパリから守る」 ファストファッションが席捲するなか、究極のエコファッションを伝える女性

2026年4月3日(金)15時50分
岩澤里美 (スイス在住ジャーナリスト)

世界に発信するため、ファッションのMBAを取得

福西さんが並々ならぬ覚悟で開業に臨んだことは、厳しい学業を修めたことからもわかる。彼女は、着物を広めるのであれば、ファッションのトップレベルの世界を理解したうえで取り組む必要があると考えた。そのため、ファッション界で世界的に有名なフランス・ファッション学院(Institut Français de la Mode)の「エグゼクティブMBAコース(ラグジュアリーファッションの経営者を育てるコース)」に入学した。財務からプレゼンの仕方まで学び(エルメス社長にプレゼンする授業もあった)、開業に備えた。

開業がコロナ禍の真っただ中だったこともあり、想定していた客足には届かなかったものの、終息後は大きく増加し、撮影用のレンタルの依頼も頻繁に来た。ただ、品質や顧客体験を維持するため、スタッフに任せきりにするのではなく、彼女自身が接客に多く関わる必要があった。また、イベントや啓発活動が思うように進まないもどかしさも感じていた。利益のために、足袋ソックスなどの和風小物の品揃えを増やし、収益構造とのバランスをとる難しさも感じていたため、5周年を機により持続可能な形へと活動を再構築した。

そして彼女は今年に入り、高級レインウェアのブランド、ノルウェージャン・レインのパリ本店にて着物の販売を再開。同ブランドの共同設立者兼デザイナーで福西さんの友人のT-マイケル氏が「うちの店で、着物を売ってみてはどう?」と言ってくれたのがきっかけになったという。

ノルウェージャン・レインのパリ本店

ノルウェージャン・レインのパリ本店(写真提供:福西園)

日本の染織文化は格別

福西さんが伝えたい着物の大きな魅力は2つある。1つは、日本の染織文化そのものの素晴らしさだ。「着物文化は、糸づくり、染め、織りといった工程ごとの高度な職人技術が結集して成り立っています。多くのフランス人は着物の柄は機械作業によるものだと思っていて、まさか手仕事で作られているなんて、と驚きます。本当に、どの反物をとっても素晴らしいですね。自分らしいスタイルや自由な組み合わせを楽しむために、着物は重宝すると思います」と話す。

福西さんはフランスの民放最大手TF1のルポルタージュ番組に出演した際、奄美大島の大島紬を探る旅をした。個人的に大島紬も大好きだというが、「特定の織物のことを伝えるだけではなく、日本の染織文化全体の価値を紹介したいと考えています」と語る。

着物の構造は無駄が少ない

もう1つの魅力は、現在ファッション業界で議論されているサステナビリティだ。着物は直線裁断で布の無駄が少なく(糸をほどくとほぼ一反に戻る)、仕立て直しやサイズ調整が可能で、世代を超えて長く着続けることができる。手縫いのため生地も傷みにくい。一方、着物と同様に高級な衣料であるオートクチュールは顧客の体型ぴったりに仕立てるため、例えば母から子へと譲ることは難しい。

「洋服は20年以上経つとヴィンテージとみなされますが、着物は80年経ってようやくヴィンテージといえると思います。非常にサステナブルです」と福西さんが言うように、着物の生地は3世代で着た後でも使用に耐え、最長150年も持ちこたえる「究極のエコファッション」なのだ(全天然素材の場合は、焼却・堆肥化も可能)。

パリでは、こうした着物の優れた点を売り手も買い手も理解していないことが多いと福西さんは指摘する。

「着物は直接肌にふれるものではありません。洋服で例えるなら、カシミアのジャケットのようにアウターとして着るものです。そういった上着は汚れを拭き取るだけで、自宅で洗う人はいませんよね。でも、着物のことを理解していないがゆえに着物を洗濯してしまうのです」

基本的なことも含め、正しい情報を発信していかなければという強い思いが彼女のなかに込み上げている。アイデアはいろいろあり、これまで時間が取れずにいたユーチューブでの発信も始めていきたいとのことだ。

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