「達成の快楽は20世紀的」 佐々木俊尚に聞いた、山頂を目指さない「フラット登山」の魅力

4月23日に発売された『フラット登山』と著者の佐々木俊尚さん TOMOHIRO IWANABEーNEWSWEEK JAPAN
<脳疲労に悩む現代人を救うアクティブ・レスト(積極的休養)の選択肢としても期待される「新しい登山」の考え方について、このほど新著『フラット登山』を上梓した佐々木俊尚さんに聞いた>
登山といえば、きつい道中に耐えて山頂で達成感を得るもの──文筆家の佐々木俊尚さんは、そうしたステレオタイプを取り払い、自然に触れる楽しさや気持ちよさを味わう本質的なスタイルとして「フラット登山」を提唱している。
一般的な山登りと何が違うのか? このほど佐々木さんが上梓した『歩くを楽しむ、自然を味わう フラット登山』(かんき出版)の冒頭から引こう。
急登にヒイヒイ言うのだけが登山じゃない。フラット(平坦)な道も歩いて楽しもう。自然と向き合える楽しい登山の世界にまで、ヒエラルキーを持ち込みたがる人たちがいる。いわく「冬山のほうが偉い」、いわく「日本百名山をたくさん登ってるほうが偉い」。そういう下らないマウンティングから脱却して、みんながフラット(平等)に登山を楽しもう。
登山を難しく考えすぎるのはやめよう。もちろん遭難対策は忘れてはならないが、もっと気軽に週末日帰りでふらっと気軽に登山を楽しもう。(本書「はじめに」より)
「平坦」「平等」「気軽」の3つの意味を込めたというフラット登山。山頂を目指すいわゆるピークハントにこだわらず、昨今人気のロングトレイルほど長い距離を歩くわけでもない。日常的な散歩よりも深い自然にひたって、「歩く」楽しさや気持ちよさを堪能するという考え方である。
では、どんな経緯でフラット登山を"発明"したのか。また、このスタイルだからこそ得られる「21世紀的な快楽」とは? ライターの一ノ瀬伸が聞いた。
──著書『フラット登山』は4月下旬に発売されてすぐに重版となりました。他にも「歩く」をテーマにした本がヒットするなど、最近「歩く」ことに注目が集まっているように感じます。その背景をどう考えていますか?
反響は予想以上で、いま、登山とか歩く行為への欲求が潜在的に高まっていると感じます。一つの要因で説明するのは難しいですが、体力づくりや健康意識の高まりはあると思います。
コロナ禍にキャンプブームがありましたが、キャンプ自体はあまり身体を動かすものではないので、もう少し健康的に自然に浸りたいというニーズが高まっている。仕事がかつてのブラック時代からホワイト化して時間に余裕ができている部分もありますよね。