最新記事
エクササイズ

高齢者だけじゃない! 40歳から始まる「回復力の衰え」―医師が語る中高年の運動目標

2025年2月10日(月)11時21分
高田 明和 (浜松医科大学名誉教授、医学博士)*PRESIDENT Onlineからの転載

動く前に、このひと工夫で安全を確保!

いくら「自分はまだ大丈夫」「自分はまだ若い」と思っていても、肉体を限界まで追い込もうとするような運動は危険です。回復能力の衰えは、65歳どころか40歳を過ぎれば始まっているのです。

決して、世間一般でいう高齢者のみに当てはまる問題ではないのです。

ですので、脅すわけではありませんが、運動好きな人ほど、そのリスクについてもちゃんと認識しておいてほしいのです。


もし、自分の運動方法やトレーニングメニューに、ケガをするようなものがあるならば、すぐにそれをやめるべきでしょう。

たとえば、毎日ウォーキングをしているけれど、長い階段のところで躓きそうになったのであれば、その階段を通らないようにすればいいだけです。

あるいは、夕方以降は暗くて危険なのでジョギングを避ける、どうしても車の往来が激しいコースを走らざるを得ないのなら、いっそ室内用のランニングマシンを購入して、毎日、家の中で30分走るなど。交通事故の危険性だけでなく治安の面からも、そうする価値は十分にあるでしょう。あえて危険を冒す必要はないのです。

さらに年をとると、筋肉も筋膜も関節も固くなっていきます。ですから運動を始める前には、今までよりもストレッチなどの準備体操は入念に行ないましょう。

運動するにも備えが大事であり、 “老化の運命” を分ける要素になってきます。

「筋肉をつけるため」でなく、「失わないため」にする

では、ケガのリスクを知ったうえでどんな運動をすれば若々しくいられるのでしょうか?

まずは、中高年が運動する際の目標設定のアップデートが必要です。

結論から言うと、中高年の「目標は、筋肉量を落とさないため」に尽きます。

これまでは「筋肉量を増やすため」にしていたのを、「今ある筋肉量を維持するため」に改めます。

40歳を超えると、筋肉量は毎年1%ずつ減少していきます。すると70歳になったとき、筋肉量は若いときの半分ほどにまで減ってしまうのです。これが「サルコペニア」(加齢性筋肉減弱現象)と呼ばれる老化現象です。

この「サルコペニア」に抗するために、落ちる筋肉量を補うだけの筋肉を新たにつくっていくのが、40歳を超えてからの運動をする目標とします。

「40歳を超えてから」としましたが、実のところ50歳代後半までは、まだ、筋肉の組織は早くつくられるので、サルコペニアについてはさほど気にする必要はないとされます。体調管理をしっかり行ない、適度の運動を続けていれば大丈夫です。

しかし60歳以上になると、とたんに筋肉はつきにくくなります。

ですから、食事メニューに含まれるタンパク質の量を減らさない工夫をするとともに、足の屈伸や腕立て伏せのような自重運動、つまり自分の体重を負荷にして行なう運動をすることが必要になります。

では、「適度の運動量」とは、いったいどのくらいが目安なのでしょうか?

厚生労働省が『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』(2023年)で推奨しているのは「毎日40分以上の身体活動」と「毎日6000歩以上」の歩行です。

一見、大変そうですが、すでに私たちは65歳以上の男性で平均5396歩、女性で平均4656歩の歩行をしています。ですから、これに20~30分の散歩を加えれば、すぐに目標はクリアできます。

歩くのが困難な人も、ストレッチなどで体を動かす時間をつくり、じっとしている時間を短くするだけでOKなのです。


newsweekjp20250207121156-4377f3501e60ad7e2649bda9388525425db7a493.jpg高田明和『20歳若返る習慣』(三笠書房)(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英地方選、右派「リフォームUK」が躍進 補選も制す

ビジネス

日経平均は7日続伸、一時500円超高 米株高や円安

ワールド

米CIA、中国高官に機密情報の提供呼びかける動画公

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中