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レカネマブのお世話になる前に──アルツハイマー病を防ぐため脳の老廃物を洗い流す科学的な方法とは

2023年11月18日(土)11時26分
中尾篤典(医師)・毛内 拡(脳神経科学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

パズルをする高齢の女性

*写真はイメージです Toa55 - shutter stock

睡眠に加え、運動でも脳の中の水の流れが良くなる

一方、点滅する光でなくても単に視覚刺激を行うことで、脳の老廃物を洗い流せる可能性があるということを示した研究結果が、アメリカのボストン大学の研究により示されています。

この研究では、チェッカーボードの模様を16秒間提示し、その後16秒間真っ暗にするという視覚刺激を1時間にわたり繰り返し行いました。その結果、脳脊髄液の流入が増加したというのです。これは、視覚刺激を繰り返して維持することで脳血流が増加したためだと考えられています。

さらに実は、睡眠だけでなく運動によっても脳の中の水の流れが良くなるという話もあります⑦⑧。とにかく働くときは働いて、思いっきり寝る、メリハリ。脳の健康の秘訣(ひけつ)はこれに尽きるのかもしれませんね。


出典
① Lee J.-H, et al. Faulty autolysosome acidification in Alzheimer's disease mouse models induces autophagic build-up of A β in neurons, yielding senile plaques. Nat Neurosci. 2022;25: 688-701 .
② Iliff J. J.,et al. A paravascular pathway facilitates CSF flow through the brain parenchyma and the clearance of interstitial solutes, including amyloid β . Sci. Transl Med. 2012;4: 147ra111.
③ Xie L. et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science 2014;342, 373-377.
④ Hablitz L. M, et al. Circadian control of brain glymphatic and lymphatic fluid flow. Nat Commun.2022;11: 4411
⑤ Iaccarino et al., Gamma frequency entrainment attenuates amyloid load and modifies microglia, Nature volume 540, 2016;pages230-235.
⑥ Soula et al., Forty-hertz light stimulation does not entrain native gamma oscillations in Alzheimer's disease model mice, Nature Neuroscience volume 26, 2023;pages570-578.
⑦ von Holstein-Rathlou S,et al. Voluntary running enhances glymphatic influx in awake behaving, young mice. Neurosci Lett. 2018; 662: 253-258.
⑧ He X, et al. Voluntary Exercise Promotes Glymphatic Clearance of Amyloid Beta and Reduces the Activation of Astrocytes and Microglia in Aged Mice. 2017 10.3389/fnmol.2017.00144

中尾篤典(なかお・あつのり)

医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授
1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。

毛内 拡(もうない・ひろむ)

脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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