最新記事

新型コロナウイルス

緊急事態宣言は変異株の拡大を抑え込むか? 進化生物学的に危険な「日本のワクチン接種計画」のリスク

2021年4月26日(月)20時00分
宮竹貴久(岡山大学学術研究院 環境生命科学学域 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

※写真はイメージです。 Mutant strain - iStockphdto

3度目となる緊急事態宣言の発出は、大阪府や東京で急速に広がる変異株による爆発的な感染拡大を食い止めるためとされる。なぜ変異株はさまざまな種類が一気に増えるのか? 岡山大学学術研究院の宮竹貴久教授は、「変異することが生物の基本だ」と言います。

なぜこんなに変異型が増えるのか?

イギリス型、ブラジル型、南アフリカ型と新型ウイルス(SARS-CoV-2)の変異体が世界的に増えている。巷では「なぜこんなに変異型が増えるのか?」という声をよく耳にするようになった。

なぜなのか?

それは変異することが生物の基本だからである。

私たちの顔つきや、体格、性格がみんな違うように、すべての種類の生物に変異は見られる。その変異は次の世代に受け継がれ、つまりコピーされ、また世代をつないだ変異だけが生き残れる。進化生物学的に考えると、ウイルスに変異体が現れるのは当たり前だ。

変異と薬剤開発の繰り返し......

「農薬抵抗性」という言葉をご存じと思う。これも生物の変異がもたらす結果である。

私の専門は昆虫学なので、害虫防除の過程で生じた話に少しお付き合いいただきたい。夏になると害虫が増える。増える勢いがすさまじいと、人は農薬の散布に頼らざるを得ない。すると必ず問題になるのが、農薬に抵抗性を持った害虫のタイプ、つまり変異体が現れて農薬が効かなくなることだ。これが農薬抵抗性である。

抵抗性を持った害虫が蔓延(まんえん)すると、農薬会社は新しい農薬の開発に資本を投資する。やっと開発された農薬もまた撒まき続けると、その農薬に抵抗性を持った変異体が現れ、多くのケースで害虫の抵抗性獲得と新たな農薬開発の「鼬(いたち)ごっこ」が始まる。

薬剤に対する抵抗性と、薬の開発との「鼬ごっこ」は、農業害虫の話だけではない。世間でよく知られているように、病院の中で抗生物質に抵抗性を持つ病原菌が出現し、新たな抗生剤を投与しなくてはならなくなる院内感染菌もまた、製薬会社による新薬の開発と病菌による抵抗性獲得の「鼬ごっこ」を繰り広げているのだ。

害虫駆除の「不妊化」という方法

害虫の駆除法に話を戻そう。

環境に優しい害虫防除法が最近ではつぎつぎと開発されている。その1つに、虫のオスを大量に増やして不妊にし、野外に放す「不妊化法」と呼ばれる駆逐法が流行っている。

ブラジルや中国では、伝染性の病気を媒介する蚊を根絶するために、不妊化した蚊を大量に野に放つプロジェクトが展開されている(*1)。

不妊化したオスは野生のメスと交尾するが、不妊オスと交尾したメスは子供を残せない。毎世代、たくさんの不妊オスを放つと、ついには根絶に至るという害虫の根絶方法で、その原理は1950年代にアメリカで生まれた(*2)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾包囲の大規模演習 実弾射撃や港湾封鎖訓

ワールド

和平枠組みで15年間の米安全保障を想定、ゼレンスキ

ワールド

トルコでIS戦闘員と銃撃戦、警察官3人死亡 攻撃警

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 10
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中