『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだけハリウッドに「オマージュ」を捧げられてきたのか
Samurai Meet The World

ただし、ヒーローがたった1人で悪党の群れをなぎ倒すお決まりの殺陣はない。平安時代を舞台に、寂れた山道で出会った侍夫婦と盗賊(三船敏郎)をめぐる物語だ。
侍は死に、その妻を連れていた盗賊は捕らえられる。盗賊と妻、死んだ侍(巫女〔みこ〕に呼び出された霊)、そして事件を目撃した薪売りの男がそれぞれ異なるいきさつを証言し、最後まで真実は分からないまま終わる。
『羅生門』は51年のベネチア国際映画祭で上映されたが、日本の映画会社は「現代の日本映画を代表する作品ではない」と出品に反対したという。結果はグランプリの金獅子賞に輝き、海外の批評家から「映画祭の大発見」と絶賛された。
この作品をきっかけに、黒澤はアジア人監督として初めて世界の舞台に躍り出た。後には、一つの出来事について複数の矛盾する説明や解釈が存在する現象を指す「羅生門効果」という言葉も生まれた。
『スター・ウォーズ』に影響
黒澤の時代劇は、ジョン・フォード監督の西部劇映画やシェークスピアの戯曲など、西洋の影響を強く受けている。
「侍」を世界的な大衆文化の象徴に育て上げ、ハリウッドの西部劇のヒーローに並ぶ存在にしたのはほぼ黒澤一人の功績といえるだろう。





