最新記事
映画

「犯罪ノンフィクション」の醜悪な世界──思い込みが自らに返ってくる恐ろしすぎる映画

The Dangerous True-Crime Brain

2023年4月16日(日)10時15分
キャット・カルデナス
『#サーチ2』

恋人との旅行の最中に姿を消した母親の行方を追うジューン(右)は、デジタルプラットフォームを駆使して真実を突き止めようとする TEMMA HANKIN/SONYーSLATE

<意外な展開が観客の思い込みを浮き彫りにする『#サーチ2』、犯罪を消費する現代社会のパラノイアが浮かび上がる>

現代社会は犯罪ノンフィクションという問題を抱えている。そう指摘するのは、もちろん筆者が初めてではない。

犯罪調査を行う米ポッドキャスト番組「シリアル」がブームを生み出すずっと前から、人々は恐ろしい殺人事件に心を奪われ、センセーショナルな報道を貪り、犠牲者を次々に消費してきた。

だが近年は、こうした人間の性癖をテーマにして、その醜悪な実態を照らし出す映画やドラマも登場している。

Huluが2021年に配信を開始したコメディードラマ『マーダーズ・イン・ビルディング』の主人公3人は、犯罪もののポッドキャストの大ファンで、素人探偵として複雑怪奇な事件の調査に乗り出す。

昨年公開されたB・J・ノバク監督の『ベンジェンス(原題)』は、元ガールフレンドの謎の死を利用して、自身のポッドキャストの人気アップを狙うジャーナリストの物語だ。

一方、四半世紀以上にわたって続く映画『スクリーム』シリーズは、殺人犯に熱中し、彼らをセレブ扱いする風潮をあざ笑っている。

犯罪ノンフィクション産業の暗い面をコメディー風に描く作品が多いなか、よりシリアスに向き合ったのが新作映画『search/#サーチ2』だ。

前作『search/サーチ』(18年)に続く本作は、「いいね」の数や視聴回数を稼ぐために悲劇的事件を利用する行為を検証し、それのどこが「エンターテインメント」なのか、と問いかける。

前作は行方不明の娘を捜す父親の物語だったが、今回の主人公は18歳の少女ジューン(ストーム・リード)だ。シングルマザーの母親グレース(ニア・ロング)が、新しい恋人のケビン(ケン・レオン)と旅行に出かけることにしたせいで、ぎくしゃくしていた母娘の仲は最悪になる。

前作と同様、映画の中の出来事は全て、ジューンのコンピューターの画面上で展開する。

ホームムービーの一場面として彼女の父親のことが描かれ、テキストメッセージのやりとりを通じて彼女の交友関係が見えてくる。旅先の母親が電話やメッセージに返答せず、行方不明になったと気付いたジューンの生活が大混乱に陥っていくさまも――。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中