日本で「食えている画家」は30~50人だけ 完売画家が考える芸術界の問題点

2021年9月2日(木)06時50分
中島健太(洋画家)

僕は2020年、「ARTIST NEW GATE」という新人画家の登竜門となるコンテストを創設しました。321点の応募があり、最終審査に30作品が残りました。

僕を含めたアーティストやギャラリストなど、審査員7名でグランプリを決めることにしました。持ち点は一人2票。14票中、いちばん多く入った作品がグランプリになるはずでした。ところが、まったくかぶらずに、14作品が残ったのです。

同じ作品を「いい」と思った人がいなかった。それくらい、価値観は多様なのです。美意識は必ずしも一般化できないと、改めて思いました。

ちなみにグランプリは、最終的に話し合いによって決まりました。

芸術に正解はありません。堂々と胸を張って「これが好き」と言っていいのです。

自分の好きを誰かに説明すると、違う意見が出てきます。そのときは怖がらずに、「そういう考え方もあったのか」という新しい視点の発見、ととらえればいいのです。

美術館に行ったのなら、まずは「好きだと思う作品はどれか」と考えながら、ぐるっと一周してみてください。見終わったら、印象に残った作品、好きだと思った作品の前に戻って、どこが好きなのかなと言語化してみる。こうしたことによって、自分の美意識や感性が豊かになっていきます。

soldoutpainter20210901-5.jpg

撮影:河内 彩

「モナ・リザ」は本当に世界一の美女なのか?

「モナ・リザ」は、一般的には芸術史における世界一の美女と評されますし、なんとなくそう考えている人も多いのではないでしょうか。

でも僕は、そう思いません。僕にとっては「なんだか不気味な絵」でしかありません。「あげるよ」と言われても、ほしくありません。

こんなことを書くと専門家の方々には「あいつは何も知らないで」などと怒られるかもしれません。

でも、それの何が問題なのでしょう?

芸術は自分を豊かにするものであって、それ以上でも以下でもないと僕は考えています。芸術に明確な正解があると考えていると、世間がよいという作品に対して自身の意見を表明することが怖くなります。

でも、正解などないのです。専門家と名乗る人間が間違っていることも、いくらでもあります。

本書を読んでくださった方が芸術を語るとき、「私、芸術とかアートって、全然わからないんです」この一言から卒業してくれていたら、うれしいです。

芸術でビジネスに役立つ感性を磨く

ビジネスでは、人を感動させることが購買につながるといいます。

芸術にふれることによって、ビジネスで生かせる感性を育てられます。

芸術に多くふれ、多様な価値観にふれることで、自分の琴線、自分の好みに、ある日突然気づき始めます。

西洋絵画をたくさん見ているうちに、「宗教画は上手なのはわかるけれど、ちょっと重いかな。自分は、印象派の人間っぽい感じが好きかも」ということが、なんとなくわかってくるのです。

最初は、色の好き嫌い程度かもしれません。ですが、回数を重ねるとだんだん自分の好きなのはコントラストが強い絵かな、構図はこっちがいい、という好みまでわかってきます。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中