最新記事

映画

クールな殺し屋役でキアヌ久々の魅力全開

出演作に恵まれなかったキアヌだが、『ジョン・ウィック』はファンの心配を吹き飛ばす復活作に

2015年10月23日(金)12時24分
フォレスト・ウィックマン

悲しきキアヌ 元殺し屋のウィックは亡くなった妻から贈られた子犬と暮らし始める MOTION PICTURE ARTWORK ©2015 SUMMIT ENTERTAINMENT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©DAVID LEE

『マトリックス』3部作が完結してから、キアヌ・リーブスの表情は冴えなかった。もともとどこか上の空といった感じがあったが、さらにやる気をなくしたようだった。「世界を救ったら、もうやることなんてないだろ」とでも言いたげだった。

 実際、その後の出演作では微妙な役ばかり。揚げ句に公園のベンチに1人で座ってサンドイッチを食べている哀れな姿を盗み撮りされ、「悲しきキアヌ」のタイトルでネット上に公開されて、さんざんおちょくられる始末......。

 そんなリーブスだが、彼が殺し屋に扮するスタイリッシュなアクション新作『ジョン・ウィック』を見れば、ファンは安心するだろう。リーブスも彼の演じるキャラクターも、久々に映画の醍醐味を堪能させてくれる。

 殺し屋ものの名作映画の例に漏れず、映画の冒頭で主人公は既にヤバい稼業から足を洗っている。そして「悪い奴らが手を出したのは最強の男だった」式の映画によくあるように、冒頭で主人公は愛する妻を病気で失ってしまう。

 元殺し屋のジョン・ウィックはもはや生きがいを見いだせない。そこへ思いがけない贈り物が届く。愛くるしいビーグル犬だ。妻は自分の死後に夫の心の支えになるよう、ひそかに子犬を贈る手配をしておいたのだ。

 孤独な男は徐々に子犬と心を通わせる。観客はいくつかの「悲しきキアヌ」を目にすることになる。ベッドに飛び込んでくる子犬をいとおしく思う「悲しきキアヌ」、子犬とコーンフレークを食べる「悲しきキアヌ」、愛車の69年式マスタングでスピンターンをして、孤独を紛らわす「悲しきキアヌ」......。

 深い悲哀を抱えた男の積もり積もった感情は、ある事件をきっかけに暴発する。ロシア系マフィアのボスのバカ息子がマスタングを盗もうとして、子犬を殺してしまうのだ。

神業的な射撃テクニック

 ここから映画は復讐劇と化す。マフィアのボスは息子にまずい相手を怒らせたことを説明する。それは、これから始まるすさまじい殺戮を観客に予告するせりふでもある。「奴は並の殺し屋じゃない」と、ボスは言う。「鉛筆1本で3人の男を殺せる」

 ただしこの映画でウィックが使う武器は鉛筆ではなく拳銃だ。彼はカンフーと銃を融合させた「ガンフー」の達人。敵を次々なぎ倒す神業的なすご腕は『マトリックス』のネオを連想させる。アクション映画と言っても、爆発に次ぐ爆発で観客を驚かすような映画ではない。ウィック(ロウソクの芯)の名のとおり、復讐の炎はじわじわ燃え上がる。その神懸かり的なクールさは、フィルム・ノワールの傑作『サムライ』へのオマージュだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱自社長、ネクスペリア問題の影響「11月半ば過ぎ

ワールド

EUが排出量削減目標で合意、COP30で提示 クレ

ビジネス

三村財務官、AI主導の株高に懸念表明

ビジネス

仏サービスPMI、10月は48.0 14カ月連続の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中