最新記事
2024米大統領戦

米経済に垂れ込める米大統領選の暗雲...トランプ再選で、1930年代以降で最も危険な時代が到来か

ISSUES 2024: THE UNITED STATES

2023年12月27日(水)13時30分
ジョセフ・スティグリッツ(米コロンビア大学教授〔経済学〕)
DIMITRIS66/ISTOCK(FACE)

DIMITRIS66/ISTOCK(FACE)

<もしもアメリカがあの男を世界に解き放ち、中東情勢の混乱と物価高騰を吸収できなければ世界は混乱に陥る>

2024年を1つの出来事で語るならば、まず米大統領選挙だろう。予期せぬ事態が起きない限り、ジョー・バイデン対ドナルド・トランプの再戦になりそうだ。

この選挙はアメリカだけでなく、世界にとっても重要である。その結果は24年の経済見通しに左右されるかもしれず、その経済見通しは中東の混乱の展開に左右される部分もある。私の最善の推測(そして最悪の悪夢)では、約540万人のパレスチナ人が何十年も貧困に苦しんでいるパレスチナ自治区ガザでの停戦を求める国際社会の嘆願を、イスラエルは無視し続けるだろう。

しかし、23年10月7日にイスラム組織ハマスが非道な行為を繰り広げたとはいえ、アラブ諸国はガザに降り続く残忍さを許しはしないだろう。そう考えると、1973年の第4次中東戦争でイスラエルを支援した国々に対してOPEC(石油輸出国機構)のアラブ加盟国が石油禁輸措置を講じたことの再現は、避けられそうにない。

もっとも、中東の産油国は価格の引き上げで供給量の減少を補うことができ、実質的な損害はないだろう。世界銀行などが1バレル=150ドルを超える恐れがあると警告しているのも、驚きではない。そうなればコロナ禍によるパンデミック後のインフレが収束しつつある矢先に、再び供給主導のインフレが起きることになる。

このシナリオにおいて、バイデンは必然的に物価上昇の責任を問われ、中東での失策を非難される。一方で、トランプ前政権が主導したアブラハム合意と、イスラエルが「一国家解決」に舵を切ったことによって紛争が再燃したことは、ほとんど問題にならないだろう。

正当かどうかは別にして、地域の混乱がトランプにとって有利に展開することは考えられる。著しく分極した有権者と偽情報の山は、無能な嘘つきを、アメリカの民主主義制度を抹殺し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領など権威主義的な指導者に擦り寄る嘘つきを、再び世界に押し付けるかもしれない。大統領に復帰したトランプが自分の気に入らない機構から衝動的にアメリカを脱退させれば、国際協定や国際的な法の支配という考え方そのものが、たちまち過去のものになる。

悲劇的なことに、バイデンは客観的に見て、非常に成功した大統領だった。ウクライナの状況を、彼はおそらく他の誰よりもうまく管理している。大規模なインフラ法案や、国内の半導体産業を強化するCHIPSおよび科学法、グリーン経済への転換を促すインフレ抑制法は、アメリカを新たな経済路線に導いた。

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:米企業のCEO交代加速、業績不振や問題行

ビジネス

アングル:消費財企業、米関税で価格戦略のジレンマ

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マイクロプラスチックを血中から取り除くことは可能なのか?
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中