最新記事
自己啓発

5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?

2023年12月7日(木)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

その研究では、実験参加者たちにシンプルな賭けのゲームをプレーさせた。コンピュータを使ったルーレット風のゲームである。プレーヤーは、二つのルーレットのいずれかを選ぶ。そして、ルーレットのどの場所に矢が止まるかによって、お金を受け取るか、お金を失うかが決まる。

賭けに負けてお金を失った実験参加者は、残念に感じた。この点は意外でない。しかし、お金を失ったあと、もうひとつのルーレットを選んでいれば、賭けに勝ってお金を手にできていたと知った人たちは、いっそう残念に感じた。この人たちは後悔を感じたのである。

後悔を感じないのは脳が損傷しているから

ところが、別の選択肢を選んでいればもっとよい結果になっていたと知っても、残念な思いがとくに強まらない人たちがいた。それは、脳の眼窩前頭皮質と呼ばれる部位が損傷している人たちである。

「(この人たちは)後悔をまったく感じないように見える」と、この実験をおこなったナタリー・カミーユらはサイエンス誌に寄稿した論文で記している。

「後悔という概念が理解できないのである」

つまり、後悔を感じないこと─―それはある意味で「後悔しない」主義が理想とする状態なのだが─―は強みではないのだ。それは、脳が損傷している証拠なのかもしれない。

神経科学の研究によると、同様の傾向は、ほかの脳の病気でも見られる。いくつかの研究では、実験参加者に、たとえば次のような直接的な問いを投げかけた。


マリアは、ひいきにしているレストランで食事をしたあと、体の具合が悪くなった。アナは、はじめて行くレストランで食事をしたあと具合が悪くなった。二人のうち、より深く後悔するのはどちらだと思うか。

たいていの人は、アナのほうが深く後悔するとすぐに答える。しかし、遺伝性の神経変性疾患であるハンチントン病の人は、この点を当然とは考えない。

問いの答えを推測しようとする。その結果として、大半の人たちと同じ答えに行き着く確率は、あてずっぽうで答えた場合と変わらない。この点は、パーキンソン病の人も同様だ。あなたがおそらく一瞬で直感的に到達するのと同じ結論にいたらないケースが少なくないのである。

こうした傾向は、統合失調症患者の場合、とくに際立っている。この病気を患っている人は、ここまで述べてきたような思考がうまくできず、論理的推論を十分におこなえないため、後悔の感情を理解したり、経験したりすることが難しい。

後悔する能力の欠如はさまざまな精神・神経系の病気の主たる特徴と位置づけられており、医師たちはそれをより深刻な問題を発見するための判断材料に用いている。後悔しないことは、精神的健康の鑑(かがみ)とはとうてい言えないのだ。むしろ、深刻な病気が潜んでいる場合が少なくない。

ここまで述べてきたように、後悔のプロセスを牽引するのは、時間旅行をする能力と、過去の出来事を書き換える能力だが、そのプロセスが完了するまでには、さらに二つのステップを経なくてはならない。その二つのステップが後悔とほかのネガティブな感情の違いを生む。

※抜粋第1回:17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い
※抜粋第3回:悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方

regretbook20231206_cover175.jpg
The power of regret 振り返るからこそ、前に進める
 ダニエル・ピンク 著
 池村千秋・訳
 かんき出版

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏が英国到着、2度目の国賓訪問 経済協力深

ワールド

JERA、米シェールガス資産買収交渉中 17億ドル

ワールド

ロシアとベラルーシ、戦術核の発射予行演習=ルカシェ

ビジネス

株式6・債券2・金2が最適資産運用戦略=モルガンS
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが.…
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中