最新記事

世界経済

インフレよりヤバい世界経済の現実。これまでとまるで異なる状況になる

THE REAL STAKES

2022年8月29日(月)16時00分
ダンビサ・モヨ(エコノミスト)
ジェローム・パウエルFRB議長

パウエル率いるFRBがインフレ抑制のためにできることには限りが ELIZABETH FRANTZーREUTERS

<「ジャクソンホール会議」ではパウエルFRB議長の利上げ継続姿勢が注目を浴びたが、世界経済の大きな潮流を見落とすべきでない>

8月25日、米ワイオミング州の山荘で毎年恒例の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が幕を開けた。新型コロナのパンデミックが始まって以来初めて対面で開催された同シンポジウムには、ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長など、世界の中央銀行関係者、政策当局関係者、エコノミストが集まった。

今年の会議は、世界的に景気後退への懸念と物価高騰の脅威が高まるなかで始まった。

このような状況で、アメリカの中央銀行であるFRBは「インフレ・ファイター」としての姿勢を改めて強く打ち出し、金利の引き上げに踏み切るだろう。しかし、その効果には限界がありそうだ(編集部注:パウエルは26日の同シンポジウムで行った講演で、9月に大幅な利上げを再度行う可能性を示唆した)。

中央銀行が行う伝統的なインフレ抑制策は、金利引き上げと資産買い入れの縮小によってマネーサプライを減らし、需要の増加を減速させることを目的としている。しかし、現在の物価高騰の原因は需要の過熱だけでなく、供給の不足にもある。

モノとサービスの世界最大の供給国である中国では、ゼロコロナ政策により経済活動が大幅に抑制されてきた。

世界的に見ても、空前の熱波、人手不足、コロナ禍における移動や物流の制約により、サプライチェーンの混乱に拍車が掛かっている。

アメリカでは労働参加率がコロナ前の水準に戻っていないため、企業は人手不足に陥り、旺盛な需要に応えることが難しいのが現状だ。若くして引退生活を目指す人や、激務での燃え尽きによる退職者の増加、そしてリモートワークによる生産性の低下も、暗い影を落としている。

ウクライナ戦争もエネルギー価格と食糧価格の高騰を招く要因になった。エネルギー供給に関しては、近年のESG(環境・社会・企業統治)投資の急拡大に伴い、旧来型のエネルギー産業への投資が大幅に減っていることも見過ごせない。

FRBが金融引き締めを行い、景気が減速すれば、人々の就労意欲が高まって人手不足が緩和される可能性はある。

しかし、供給面のインフレ要因のほとんどは、FRBが直接どうにかできるものではない。

政府、企業、金融政策当局は、インフレ率1桁台中盤が続く状況を前提に対応を考えたほうがいい。これまで長期にわたり物価上昇率が中央銀行の目標値を下回り続けたのとは、まるで異なる状況になるのだ。

金利が高まれば、企業の利払い負担が増すだけでなく、企業はリスクを避けるようになり、投資を減らすだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、米国の和平案を受領 トランプ氏と近く協

ワールド

トランプ氏、民主6議員を「反逆者」と非難 軍に違法

ビジネス

米9月中古住宅販売、1.2%増の410万戸 住宅金

ワールド

中ロ、ミサイル防衛と「戦略安定」巡り協議 協力強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中