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暗雲漂うドル円相場の行方──米利下げ、対中関税引き上げの影響は?

2019年8月7日(水)12時45分
上野 剛志(ニッセイ基礎研究所)

このように、今後は円高圧力の高まりが危惧されるが、メインシナリオとしては、既に現時点で米利下げはかなり織り込まれていることを鑑み、ドル円の下落余地も限定的と見ている。具体的な下値目処としては105円程度と見込んでいる。

その後、年終盤には、ドル円の持ち直しが期待される。来年に入ると大統領選モードに入るトランプ大統領にとって、米国経済を本格的に悪化させるわけにはいかない。そうした意味では、タイムリミットは年末辺りになるだろう。また、中国政府としても、建国70周年を迎える10月を終えれば、妥協余地が生まれるはずだ。両国政府に歩み寄り姿勢が生まれ、年末には米中摩擦が緩和に向うことが期待される。米景気が堅調を維持しつつ米中摩擦に改善が見られれば、FRBもさらなる利下げを行う必要はなくなる。実際、過去20年間、FRBが長期・段階的な利下げを実施したのは、景気が大幅に悪化した際に限られる(図表6)。

そうなれば、市場では米中摩擦緩和を好感したリスクオンの円売りと、米利下げ観測後退に伴うドル買いが発生し、ドル円は一旦109円程度に持ち直すと予想している。

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ただし、上記シナリオの不確実性が高めであることも否めない。トランプ政権の通商・外交政策は予見可能性が低いためだ。仮に米中摩擦がさらに激化したうえ改善の兆しも見えず、米経済への多大な悪影響が顕在化すれば、FRBは予防的利下げの枠を超えて、景気悪化に対応するための長期・段階的な利下げ路線にシフトすると考えられる。その際には、米利下げ観測のさらなる上昇によってドル円は急落し、1ドル100円割れを試す恐れすらある。

日銀の対応:円高の歯止め役にはなれない

今後、仮に急激な円高が進行した場合、日本側に止める手立てはないと考えられる。まず、かつて円高抑止策として多用された円売り為替介入はトランプ政権による通貨安誘導批判によって、実質的に封じられている。日本政府が円売り介入を実施すれば、米政権のトラの尾を踏むことになり、強い批判を受けるばかりではなく、日米通商交渉において為替条項をごり押しされる材料を提供してしまうことになりかねない。

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