最新記事

中国

中国個人投資家、株安もたらすトランプのツイッター、ネット規制で把握できず

2019年5月10日(金)10時40分

トランプ米大統領の5日のツイッター投稿で、中国製品への関税引き上げを表明したのをきっかけに、今週は世界の株価が急落した。上海で6日、株価を見る投資家(2019年 ロイター/Aly Song)

トランプ米大統領の5日のツイッター投稿で、中国製品への関税引き上げを表明したのをきっかけに、今週は世界の株価が急落した。ところが最も売りが激しかった中国では、インターネットと報道の規制により投稿内容が個人投資家に伝わらず、資本市場の国際化を目指す政府方針との矛盾が浮き彫りになった。

週明け6日、中国の機関投資家は世界に接続する取引ターミナルを通じ、最新の動向を把握することができた。しかし中国株式市場の出来高で約8割を占める個人投資家の多くは、その日遅くになるまで株価急落の背景で何が起こっているのか分からないままだった。

香港浸会大学の経済学部助教授、ポール・ラク氏は「機関投資家や国際的な金融機関、情報網を張り巡らした洗練された投資家など、情報を受け取りやすい人々は、個人投資家に先んじてポジションを調整することができる」と指摘。6日の株価急落で損をしたのは大半が個人投資家だったと推測した。
報道機関はこの日、中国政府からトランプ氏のツイッター投稿を報じないよう命じられた。ソーシャルメデイア上でも関連コンテンツが検閲を受け、ストラテジストはリポートでトランプ氏に言及しないよう指導を受けた。

個人投資家が中国の有力メディアを通じて情報を得る場合、内容が制限されていたり、遅れている場合が多い。
こうした制限は、有利な大手投資家から個人投資家を保護したいとする政府方針に逆行している。また、外国人投資家にとって公正で透明な資本市場の育成を損なう恐れもある。
上海の米商工会議所は4月、中国政府に対し、ネット閲覧制限は上海を国際金融センターにするという目標の「大きな足かせ」になるとし、上海自由貿易試験区で制限を緩和して市民にグーグルなどへのアクセスを許すよう求めた。
中国株が過去3年で最大の下落を記録した6日、北京に住む個人投資家のシー・ワンさんは損失を被った。「株をやっている友達の多くは苦汁をなめさせられた。何が起きたのか知った時には手遅れだった」
機関投資家の中にも不意を突かれた人々がいる。
福建省でファンドマネジャーを務めるヤン・ティングーさんは最初、相場の下落は「テクニカルな調整」だと思った。トランプ氏のツイッター投稿を知ったのは午後2時頃で、教えてくれたのは情報通の部下らだった。
開源証券のストラテジスト、ヤン・ハイ氏は6日、メッセンジャーアプリ「微信(ウィーチャット)」を通じ、トランプ氏の投稿に言及した市場分析リポートを配信しようとしたが、何度試みても失敗した。
6日にようやく情報の壁を突破したのは、トランプ氏のツイッター投稿のスクリーンショット(画面をそのまま撮影したもの)をソーシャルメディアに投稿するという「ゲリラ的手法」だった。
それでも中国の主要な証券新聞は7日、市場分析でツイッター投稿に触れず、株価急落の原因を外国人投資家の資金流出や割高感、「不可解なムードの揺れ」だと説明した。
(Yawen Chen記者, Samuel Shen記者 Cate Cadell記者)

[上海/北京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

消費税率引き下げることは適当でない=加藤財務相

ワールド

クックFRB理事の解任認めず、米控訴裁が地裁判断支

ワールド

小泉農相、自民総裁選出馬意向を地元に伝達 加藤財務

ビジネス

日銀には政府と連携し、物価目標達成へ適切な政策期待
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中