最新記事

中国IT起業家

スマホの次はEVに進出―ある中国人起業家の「節操のなさ」の裏にある「一貫性」

「中国版ジョブズ」の次は、「中国版イーロン・マスク」を狙うチャ・ユエティン

2015年12月21日(月)16時10分
三国大洋(オンラインニュース編集者)

 中国の成功した起業家でチャ・ユエティン(贾跃亭 Jia Yueting)という人物が一部の英語媒体で注目を集めている。Forbesによると推定個人資産79億ドルで「中国で17番目の大富豪」(世界全体でも557位)。2004年に立ち上げた「LeTV」というネットテレビ配信サービスの成功で富を築き、その後はコンテンツの制作から、テレビやスマートフォンといったハードウェアの製造販売まで、さまざまな分野のビジネスに手を出している。そんなチャが最近はもっぱら「中国のイーロン・マスク」になるべく電気自動車(EV)の開発に入れ込んでいるという。

 チャは、LeTVを運営するレシ(Leshi Internet Information & Technology)という自分の会社で、マスクの経営するテスラ(Telsa)に対抗するような高級車の開発を狙っているほか、ファラデイ(Faraday Future)ならびにアティエヴァ(Atieva)という2つのEVベンチャーにも投資している。このうちのファラデイのほうが最近(12月はじめ)米ラスベガス(ネバダ州)の郊外に10億ドル(約1200億円)を投じてEVの製造ラインを建設することになったというニュースがいくつかの英語媒体で報じられた。

 スマートフォンが登場すればアップルあるいはジョブズの名前を引き合いに出し、次にEVがいけそうだとなれば今度はテスラやマスクを引き合いに出してくる。あるいはそうした先行者の後を追いかける。チャのこのあたりの行動原理はわかりやすく、機を見るに敏な商売人のフットワークの軽さも感じられる。

EVはスマフォのように手軽につくれるのか?

 そのいっぽうで、ネット動画配信企業の経営者の視点からみれば、どのハードウェアも自社で配信するコンテンツの表示先、あるいは中核事業という城を守る堀割("moot")という点で変わりはない。

 同時に、ハードウェアという「ユーザーとの接点」を他者に押さえられると何かと事業がやりにくくなるといった思いや、逆に新しい接点を自分たちで押さえてしまえば、これまでになかった種類の情報などもその接点を通じて流すことができ、それが新たな収入源につながるといった思惑もあるかもしれない。そうしたことも考えあわせると、次々と新しいものを追いかけているかのようにみえるチャのアプローチには、はっきりとした一貫性も感じられる。

 「EVがほんとうにスマフォのように手軽につくれるのか?」というのは疑問だが、それとは別に自動車の価値あるいは競争力といった点に関して、メカニカルな部分からソフトウェアベースの部分へとどんどん比重が移ってきていると感じられることも増えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措

ビジネス

アリババ、1─3月期は売上高が予想上回る 利益は大

ビジネス

米USTR、対中関税引き上げ勧告 「不公正」慣行に

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中