最新記事

テクノロジー

人類滅亡後もデータを残せ

未曾有の膨大な情報が蓄積されつつある今 未来世代に貴重な記録を残す新技術の開発が進む

2015年8月7日(金)17時24分
ベッツィー・アイザックソン

永久不滅 いつまで経っても朽ちることのないストレージとは(写真はフェイスブックの最新のサーバー) Susanne Lindholm-REUTERS

 インターネット用通信プロトコルTCP/IPの共同開発者で、「インターネットの父」とも呼ばれるビントン・サーフ。彼がいま懸念しているのは、デジタルの暗黒時代の到来だ。

「人々は写真や地図をデジタル化すれば、永久に保存できると考えている。だが、エンコードされたデータを解読できなくなったらおしまいだ」

 例えば、USBメモリーにファイルを保存しても、数年後にはパソコンで読み取れなくなる可能性がある。そのUSBメモリーを製造した会社はとうに破産し、技術者とも連絡がつかなくなっているかもしれない。

 そんな事態は誰にでも起こり得る。それどころか最先端技術を扱う機関ですら起こり得る。

 NASA(米航空宇宙局)は1975年、宇宙探査機バイキング1号と2号を火星に送った。NASAのジェット推進研究所はこのミッションで得た情報を当時の最新フォーマットで磁気テープに記録した。それからわずか10年後、NASAにはこの情報を「読み取る」ソフトウエアやスキルを持つスタッフは1人もいなくなっていた。バイキング計画で得られた情報の最大20%は永久に失われたのだ。

 今ではグーグル・ドライブを利用して、「クラウド上」にデータを保存しておける。言い換えれば、グーグルの多くのサーバーの1つに保存しておけるということだ。そうすればパソコンが壊れてもデータは安泰だが、半永久的に保存されるわけではない。グーグルがいつまでも存在する保証はないし、他社にサーバーを売って、データが消去されるかもしれない。

 グーグル・ドライブのサービスが停止される場合は、ユーザーにデータを移すよう事前に通告されるだろう。だが、そのときあなたは操作を行える状態にあるだろうか。そもそもこの世にいるかどうかも分からない。

 さらに厄介なのは、デジタル機器は粘土板や紙と比べ、耐久性に劣ることだ。ハードドライブ、USBメモリー、フロッピー、CD−ROM。いずれも寿命は短い。サーバーはおよそ5年で交換が必要だ。交換を怠れば保存されたデータは劣化し、紙に記録していた場合よりはるかに早くアクセス不能になる。

DNAが重要なヒントに

 そこで、半永久的なデータ保存が可能なストレージの開発が進んでいる。英サザンプトン大学のピーター・カザンスキー教授らの研究もその1つ。石英ガラスを超長寿命の保存デバイスにするというものだ。カザンスキーによると、石英ガラスは「地球上にある最も安定した物質」の1つ。通常の状態なら、何十億年もデータを保存できるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中