最新記事

インド

中印対立地帯に日本企業が進出

安倍首相が合意した日本とインドの戦略パートナーシップは、経済だけでなく戦略的に大きな意味をもつ

2014年2月12日(水)13時42分
アンキト・パンダ

対中連合? インド政府は日本企業の力でインフラ整備を進めたい Frank Jack Daniel-Reuters

 先月末のインド訪問で、日本の安倍首相はインドのシン首相と戦略的なパートナーシップの強化に向けて多くの点で合意に達した。経済協力と位置付けられている合意の中にも、戦略面で大きな意味合いを持つものが含まれている。

 報道によると、インド政府は日本側に対し、北東部、とりわけアルナチャルプラデシュ州へのインフラ投資を働き掛けたという。同州はインドと中国の間で領有権が争われている土地だ(中国は同州の90%を自国領と主張している)。

 タイムズ・オブ・インディア紙によると、「日本企業は、道路の建設、農業、林業、水利、下水整備への協力など、インド北東部の発展を支援する機会を得るだろう」とのことだ。

 インド政府がこれまで北東部でインフラ整備をあまり行えていないのに対し、中国はこの地域の自国管理下の土地で道路建設などに力を入れている。中国の一部であることの恩恵を住民に知らしめるのが狙いだろう。

 昨年11月、インドのムカジー大統領はアルナチャルプラデシュ州を訪問し、領有権をあらためて主張。開発とインフラ整備への中央政府のさらなる支援を約束した。日本企業の投資を呼び掛けることは、この一帯の開発促進に向けた前向きなシグナルと言える。

 それはまた、インドと日本の連携強化をも意味する。これまでも日本は、貨物専用鉄道建設計画(DFC)やデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)など、インドのいくつかのインフラ整備プロジェクトで主要なパートナーとなってきた。南部のチェンナイの港湾整備にも日本企業が参加する。

 日印両国とも中国と貿易面での結び付きは強いが、政治的に良好な関係にあるとは言えない。日本は尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐり中国と緊張関係にあるし、インドは62年に中国と戦火を交えており、今も複数の領有権争いを抱えている。

 アルナチャルプラデシュ州をめぐっては、07年にインドが同州の開発のための融資をアジア開発銀行(ADB)に要請した際、中国政府が領有権争いを理由にそれを阻んだことがある。一方、インド政府は現在、同州への中国企業の投資を妨害している。

 そういう地域への日本企業の進出話は、3カ国の関係に少なからず影響を及ぼしそうだ。

From thediplomat.com

[2014年2月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中