最新記事

アメリカ経済

雇用統計の「まぼろし」に一喜一憂する愚かしさ

2012年6月5日(火)15時09分
ザカリー・カラベル(政治経済アナリスト)

 手短に言おう。アメリカの労働力の多く(おそらく4分の1程度)は今、まったく働いていないか、食べていくのにぎりぎりの稼ぎしかない人で占められている。年率2.5〜3.5%強程度の成長では、この現実を魔法のように消し去ることはできない。

 今はかなりの数の企業がひと握りの労働力で数十億ドルもの利益を上げる時代。だがそれは、もはや彼らが提供する製品を作るのに人間が必要でなくなったからだ。

 それでも多くの企業は、自社が必要とする技能を持った労働者を見つけられずに苦労している。一方では数千万人の労働者が標準以下の仕事をし、より良い仕事を求めているというのに。これもまた、いま期待されている程度の経済成長で解決できるような問題ではない。

 最大の過ちは、政府の政策が雇用問題を景気循環の問題だと定義したことだ。景気が悪くなれば失業は増えるが、景気さえ好転すれば失業も解消するというのだ。大恐慌以降今日までの雇用問題のほとんどすべてがそうだったように。

格差はこれからが本番だ

 選挙シーズンには、誰が危機をもたらしたのか、と責任のなすり合いが盛んになる。だが、アメリカの雇用市場は4年以上前から移行期にあり、それが今後何年も続くだろうということは誰も認めようとしない。政府は転換期の痛みを和らげることもできるのだが、まずは問題の核心を正しく把握しなければ何も始まらない。

 大統領選を前にしたこの政治の季節、毎月の雇用統計は熱い政治討論の種になってきた。だが構造問題やそれに対する解決策が議論されることはまずない。受けが悪く解決の難しい問題にはあえて触れないという暗黙の了解だ。せいぜい、雇用訓練や教育を提案するぐらいだろう。

 構造問題を無視することは、選挙にはプラスかもしれない。だがアメリカは将来の国益を左右する問題に何の手も打たないまま時間を無駄にすることになる。それは最新技術がもたらす貧富の差の拡大や、加速するグローバル化、アメリカやヨーロッパ諸国など世界の中心だった大国が新世代の新興国に太刀打ちできるか、といった問題だ。雇用統計に一喜一憂している場合ではない。

[2012年5月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送トランプ氏支持率40%、任期中最低 生活費対策

ワールド

イスラエル軍、ガザ市を空爆 ネタニヤフ氏「強力な」

ワールド

新型弾道ミサイル「オレシニク」、12月にベラルーシ

ビジネス

米CB消費者信頼感、10月は6カ月ぶり低水準 雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 5
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中