最新記事

欧州債務危機

ポルトガルが支援要請に追い込まれた日

財政再建案の否決を引き金に信用不安がエスカレート、危機の連鎖はどこまで続く?

2011年4月7日(木)16時53分
ポール・アメス

飛び火 ギリシャ、アイルランドに続き3カ国目(シャッターが目立つリスボンの通り) Jose Manuel Ribeiro-Reuters

 4月6日、ポルトガル政府はついにリングにタオルを投げ入れた。ギリシャ、アイルランドに続いて、EU(欧州連合)に緊急金融支援を要請したのだ。

 ポルトガルが財政破綻の崖っぷちに追い込まれたのは、市場での国債売りが加速したため。「外部への支援要請は最後の手段だとずっと思ってきたが、いま決断しなければ、この国が破綻のリスクにされされる」と、ジョセ・ソクラテス首相はテレビ演説で国民に訴えた。

 破綻を回避するために必要な額の詳細は現時点ではわからないが、過去の試算に基づいて判断すれば、150億ユーロの緊急支援を含む総額750億ユーロ程度が注入される可能性が高い(ギリシャとアイルランドには計1950億ユーロが融資された)。

 ブリュッセルのEU本部は以前から、ポルトガルからの要請があれば支援を行う用意があると表明してきた。「今回の要請に迅速に対処する」と、欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長は語った。

 国際社会による支援と、その見返りとしてEUとIMF(国際通貨基金)が当然要求するであろう緊縮財政策に長い間抵抗してきたソクラテスが自力再建を断念せざるをえなかったのは、2日間に渡る市場の劇的な動向のせいだ。

 きっかけは4月5日、格付け機関ムーディーズがポルトガル及び国内の多くの銀行や業界の格付けを引き下げたこと。国内の金融機関が国債の購入停止を表明するなか、政府は6日、記録的な高利回りで短期国債を発行して10億ユーロを調達する事態に追い込まれた。

「わが国の財政と金融システム、さらにその結果として経済にも甚大な脅威が迫っていた」と、ソクラテスは語った。「行動を起こさなければ、事態はさらに悪化すると確信している」

 国際支援を受けなければポルトガルは債務不履行に陥るとの懸念を募らせていた市場は、今回の支援要請を受けて落ち着きを取り戻すとみられている。

 膨らみ続ける財政赤字を抑えこむための財政再建策が3月23日に議会で否決されて以来、支援要請は避けられそうにない状態だった。否決を受けてソクラテスは首相辞任を表明したが、6月5日の総選挙まで暫定政権の首相職に留まることに合意。そのため、ソクラテスは今後も国際支援の条件をめぐって野党の協力を取り付ける必要がある。

「(野党の)無責任な行動によって、ポルトガルは市場で非常に厳しい立場に追い込まれた。本来なら避けられたこの厳しい状況を前にして、我々は現在の政治状況に合った形で利用可能な欧州の経済メカニズムに頼る必要がある」と、フェルナンド・テイシェイラ・ドスサントス財務相は6日に語った。

次の懸念は失業率20%のスペイン

 EU当局は、ユーロ圏を吹き荒れる財政不安の波がポルトガルを最後に落ち着くよう祈っている。財政危機に陥ったギリシャとアイルランドに対する緊急融資を機に、ユーロの単一通貨圏構想の妥当性についても疑問の声が上がっていた。これを受けてEUは、他の加盟国が危機に陥った際に備えて「欧州金融安定基金」を設置し、5000億ユーロを拠出している。

 次の懸念は、ポルトガルよりずっと財政規模の大きい隣国スペインに市場の関心が向かうこと。ポルトガルと比べればスペインの財政状況はずっと健全だとの認識がエコノミストの間に広がった結果、この数週間、スペインへのプレッシャーは弱まっている。

 ただし、失業率は20%以上で、不動産バブルの崩壊後、国内の銀行の多くが不安定な経営状態に置かれたまま。危機の連鎖が止まらなければ、欧州のみならず世界経済にも大きな影響がありそうだ。
 
GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BMW、第3四半期コア利益率が上昇 EV研究開発費

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁発足 来年から

ビジネス

中国、40億ドルのドル建て債発行へ=タームシート

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中