最新記事

自動車

GM戦略車を欠陥と言い触らす労組って

経営破綻から「奇跡の復活」を遂げ期待の「シボレー・クルーズ」も発表したが、労組との腐った関係は昔のまま

2010年10月1日(金)12時00分
ミッキー・カウス

 米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に対する公的資金投入は「間違いなく成功」だった――09年前半、危機に陥った米自動車産業再生に取り組む自動車作業部会を率いたスティーブ・ラトナーは言い切った。GMは11月にもIPO(新規株式公開)を実施するとみられ、専門家の間では公的資金に投じられた血税のほとんどを取り戻せるだろうとの見方もある。

 しかし本当にそうだろうか。GMは今も、時代遅れで敵対的な労働組合を抱えている。GM車が今後、全米自動車労組(UAW)に加わっていないアメリカ国内の工場(オハイオ州のホンダの工場など)や、中国など労働力が安い外国で生産された車と競う力があるかは不透明。

 9月に発表した世界戦略車「シボレー・クルーズ」が売れるかどうかは、GMの生き残りを左右する重要な要素になるだろう。シボレー・クルーズが生産されるのは、オハイオ州ローズタウンの工場。ローズタウンといえば70年代初期、「シボレー・ベガ」の生産時に従業員が不満を募らせてストライキを起こした、いわくつきの場所だ。

経営陣は今も労働者の敵

 新型シボレー・クルーズの発売を控え、今頃はUAWもGM経営陣も一丸となっていると思うだろうが、それはおそらく誤りだ。オートモーティブ・ニューズ紙のデービッド・バーコルツは、こう書いている。


  1週間ほど前、ローズタウン工場の労組のリーダーたちは、シボレー・クルーズのボディの底面修理を外注したGM経営陣を非難するチラシを配布。言葉遣いも語調もひどく辛辣で、GM経営陣は「卑劣でごまかしだらけで、不誠実な」行動をとってきたと糾弾した。 

 さらにひどかったのは、チラシを出したタイミングだ。GMがコンパクトカー市場に強力な商品を久々に投入するという時期に、従業員たちがこの新型車は欠陥品だと訴えたのだ。チラシには、「スイッチ」と「チャコールキャニスター」を少し修理する必要があると記されている。

 だがこのチラシを書いたメンバーの一人である、UAW・ローズタウン支部のジム・グラハム支部長は、今週になって態度を一変させ、外注問題はただちに解決されたと発表。一連の騒動は、新車発売のプレッシャーで生じた「家族内のつまらない口論」だったと述べた。

 そうは言っても、心から愛し尊敬し合っているはずの「家族」が、内輪のいざこざを表沙汰にするだろうか。しかも新車発売を控えた大事な時期に?


 短期的に見れば、ローズタウンの一件がGMに及ぼす打撃は、新型シボレー・クルーズに修理の必要性があると指摘されたことくらいだろう。しかし長期的な問題としては、そもそもGMを破綻に導いた「われわれ」労働者と「彼ら」経営陣という捉え方が今も根強く残っているかもしれないということだ。

 例えば、ホンダの従業員が社内で対立しているからといって、自社製品の評判に傷をつけるようなことをするだろうか。UAWの面々は、新型シボレー・クルーズが売れなかったら納税者がもう一度手を差し伸べてくれるとでも思っているのだろうか。

 バラク・オバマ米大統領やラトナー、自動車作業部会幹部のロン・ブルームが巧みに舵取りしたおかげで、昨年UAWが被った打撃はGMの株主よりはるかに軽く済んだ。あまりにも軽かったため、過ちの恐ろしさが骨身に染みなかったのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米アイダホ州で消火活動中に銃撃、消防士2人死亡 容

ビジネス

高島屋、今期営業益予想を下方修正 インバウンド売上

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-オリックスがインド再エネ

ビジネス

午後3時のドルは143円後半へ下落、月末のポジショ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    メーガン妃への「悪意ある中傷」を今すぐにやめなく…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 7
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 8
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 9
    突出した知的能力や創造性を持つ「ギフテッド」を埋…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中