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グーグル=マイクロソフト戦争の虚しさ

MSの検索エンジン「Bing」のためのシェア買収作戦からグーグルの「クロームOS」無償配布まで、両社の全面戦争は消費者の利益にならない

2010年1月21日(木)14時57分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 どういうわけか、グーグルの創業者セルゲイ・ブリンとラリー・ページはマイクロソフトの恐ろしさに関するメモを受け取ったことがないようだ。おかげでマイクロソフトCEO(最高経営責任者)のスティーブ・バルマーはかんかんに怒っている。

 喜々としてハイテク界の悪役を務め、世界最強ソフトウエア企業の地位を楽しんでいる威張りくさったバルマーは、何年も前からグーグルの抹殺を誓ってきた。だがまるで彼を嘲るかのように、グーグルはどんどん強くなる。

 そこでバルマーは極端な手段を取った。ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションに対し、傘下のウォールストリート・ジャーナル紙やニューヨーク・ポスト紙、イギリスのタイムズ紙などの記事をグーグルのウェブサイトから引き揚げたら報酬を払うと提案したのだ。

 各社の記事がグーグルで検索できなくなれば、マイクロソフトの新検索エンジン「Bing(ビング)」の利用者が増えるかもしれない。マイクロソフトは他のニュースメディアにも同様の提案をしているだろう。

 一見すると、市場シェアを金で買うこのやり方は最低だ。フォードがトヨタのディーラーの店の前に人を立たせて、客に「この店に入らなかったら1000ドルあげる」と言わせるようなものだ。

 とはいえ、マイクロソフトはほかに何ができるというのか。何年も従来の手法でグーグルと競ってきたが、グーグルは検索市場で65%の占有率を誇り、マイクロソフトは10%しかない。

 マードックがバルマーの提案を気に入る理由は簡単に分かる。彼はグーグルが彼の会社の記事をタダで利用していることに不満だった。グーグルはニュース記事の要約を作成し、その隣に広告を載せ、報酬は独り占めしている。

 グーグルに言わせれば、要約を見てオリジナルの記事にアクセスする利用者もいるかもしれないから、このやり方は公平だ。だがメディア企業が経営に苦しむ一方で、グーグルの08年の売り上げは220億ドル、経常利益は66億ドルに達している。

無償配布「クロームOS」の破壊力

 ニュース記事と検索エンジンをめぐるこの戦いは、グーグルとマイクロソフトのより大きな戦争の局地戦にすぎない。グーグルはマイクロソフト製品の廉価版を作り無料配布することで、その戦いを優位に進めつつある。

 グーグルは新たな武器「クロームOS」を2010年後半から無償配布する。クロームOSは低価格のネットブック向けとされているが、最終的には従来のノート型やデスクトップ型パソコンで使えるようになる可能性がある。

 マイクロソフトはグーグルがOS(基本ソフト)の世界でライバルになるなんてお笑い草だと考えている。だが無料のクロームOSはハードウエアメーカーにとって魅力的だ。300ドル以下の製品で利益を上げようとしているメーカーにとって、OS使用料を節約できることは大きい。

 将来を予測する上で最も参考になるのは携帯電話だ。昔はマイクロソフトの携帯電話用OSウィンドウズモバイルが市場の13%を占めていたが、現在では8%以下。携帯メーカーの多くはグーグルの無償ソフト「アンドロイド」を使っている。

 この競争は消費者のためになるのだろうか。答えはイエスでありノーでもある。マイクロソフトが支配する世界には多くの欠点があるが、グーグルが支配する世界がより良いかどうかは疑問だ。

おもちゃを取り合う育ち過ぎのオタク

 グーグルがソフトを作ってタダでばらまくのは、同社のビジネスモデルがほぼ100%広告依存だから。グーグルとしてはより多くの人がインターネットを利用し、たくさん広告を見てくれればいい。

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