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ゴールドマン復活のまやかし

危機を乗り切ったと言われるウォール街の雄、実態は、公的支援漬けの「生活保護長者」だ

2009年4月21日(火)16時15分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

ゴールドマンのロイド・ブランクファイン会長兼CEO(右) Shannon Stapleton-Reuters

 ウォール街の雄ゴールドマン・サックスは金融危機で傷を負ったが、結局は生き残った。米投資情報誌バロンズは3月16日号で、ゴールドマンとモルガン・スタンレーを「傑出した存在」と呼び、両社の復活を宣言した。

 ゴールドマンの株価は100ドル超まで上昇。時価総額も470億ドル近くまで戻した。世界金融危機という難破船からの脱出劇を同社の輝かしい歴史の新たな1ページと見る向きもあるだろう。

 投資関連本を多く書いているチャールズ・エリスは著書『ザ・パートナーシップ』で、ゴールドマンは「外的制約をほとんど受けることなく、自らが選んだほぼすべての金融市場で自らの選んだ条件と規模で、自らの選んだパートナーと自らの選んだタイミングで取引する力を持つ」唯一の企業だともてはやしている。

 ただし、この本のペーパーバック版を出すときには、エリスはこう書き足したくなるかもしれない。「政府が数百億ドルの支援をしてくれればの話だが」

 ゴールドマンの略称GSは「ガバメント・サックス」の意味だと言われるほど、同社は多数の米政府高官を輩出してきた(たとえばロバート・ルービン元財務長官、ヘンリー・ポールソン前財務長官など)。だが同社が政府の支援に頼り切っている今、このあだ名は皮肉に響く。

 ゴールドマンがこの数カ月で直接的・間接的に受け取ったさまざまな公的支援(つまり税金)を計算すると、米国民はこの誇り高き会社を救うために何百億ドルもつぎ込んできたことがわかる。金融業界の押しも押されぬヘビー級チャンピオンだった同社は、今やニューヨークで指折りの「生活保護長者」になった。

政府が金利を肩代わり

 08年秋のリーマン・ブラザーズ破綻後、ゴールドマンは野放しの投資銀行から政府の規制を受ける銀行持ち株会社に移行。不良資産救済プログラム(TARP)の対象になった。

 10月28日、ゴールドマンは米政府が同社の優先株を購入する形で100億ドルの資本注入を受けた。配当利回りは5%だ(2013年以降は9%)。

 TARPの対象となった他の銀行もそうだが、資本注入の条件は非常にゆるいものだった。ゴールドマンはその1カ月前にも、優先株と引き換えに著名投資家のウォーレン・バフェットから50億ドルを調達しているが、このときの配当利回りは10%だった(同社はさらに公募増資で100億ドルを調達している)。

 利率5%で100億ドルを借りるのと、利率10%で100億ドルを借りるのでは、コストが年間5億ドル違う。その分は政府がカバーするのだから、事実上の補助金だ。ゴールドマンのデービッド・ビニアCFO(最高財務責任者)は近くTARPの100億ドルを政府に返済すると語っているが、時期など具体的なことは明らかになっていない。

 ゴールドマンに注入された公的資金は100億ドルだけではない。米連邦預金保険公社(FDIC)は08年秋、金融機関がバフェットなどから高コストで借金するしかなくなる事態を懸念して、銀行の無担保債保証プログラムを立ち上げた。

 ゴールドマンは08年11月にこのプログラムを利用した最初の会社で、3年物の社債50億ドル(利回り3・367%)を発行。今年3月12日には、さらに50億ドル分を発行した。同社の発表によると、同種の社債発行額は計210億ドルにのぼるという。政府の保証と費用負担のおかげで、ゴールドマンは年間数億ドルの利払いを節約しているわけだ。

AIGの債権も全額回収

 まだある。アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)救済のために注入された公的資金のかなりの部分は、AIGの顧客、つまりゴールドマンを含む金融機関への支払いにあてられた。

 AIGの資料を見ると、さまざまな部門からゴールドマンに資金が流れていることがわかる。証券貸出部門は48億ドル、経営悪化の元凶でもあるクレジット・デフォルト・スワップ部門は56億ドル、さらにAIGは新たな担保として25億ドルをゴールドマンに差し入れた。

 ゴールドマンを含む多くの金融会社は、自らの保険契約を履行できない会社から保険を買い、事実上経営破綻した会社との間で証券を貸し借りするというミスを犯した。通常の破綻処理なら他の債権者と同列に扱われ、最終的に債権のごく一部しか回収できない。

 だがエリオット・スピッツアァー前ニューヨーク州知事が指摘するように、米政府がAIGを正式には破綻させなかったおかげで、ゴールドマンをはじめとする多くの金融機関は債権を100%回収することができた。

 バロンズ誌が言うように、ゴールドマンは今も傑出した存在かもしれない。だが政府の手厚い支援がなかったら、経営の足下がふらついていたはずだ。

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