EUを揺さぶる東欧クライシス
ドイツが主導権を握れ
EUには豊富な資金と力があるにもかかわらず、危機に際して助け合う仕組みは驚くほど不足している。EU本部が動かせる緊急安定化資金は250億ユーロしかなく、そのほとんどはすでにハンガリーとラトビアの救済に使われた。
昨年10月には欧州中央銀行(ECB)が50億ユーロをハンガリーに緊急融資した。後は加盟国全体で決めるか、加盟各国の自発的な決定を待つしかない。オーストリアが再三にわたって1500億ユーロの東欧支援をEUに呼びかけたが、賛同した国はほとんどない。
イギリス、イタリア、スペインは財政赤字の急増でマヒしている。フランスは保護主義路線をひた走る。そんなリーダー不在の穴を埋め、統一経済を維持しようと呼びかけられるのはドイツしかない。
それはドイツ自身の利益にもなる。経済の40%以上を貿易に依存しているため、古い国境を復活させるわけにはいかない。それに、いま主導権を発揮すれば、多くのEU加盟国から将来にわたって好意をもたれることにもなる。
ドイツのペール・シュタインブリュック財務相は2月16日、ユーロ圏で債務不履行の危機にあるすべての国の救済を手伝う用意があると発表した。アンゲラ・メルケル首相も東欧諸国に、3月19日の定例EU首脳会議で検討すべき計画を考案してほしいと呼びかけた。
もちろん結果がどうなるかはわからない。状況が悪化して救済を必要とする銀行や国が増えれば、EUが資金を捻出するのはさらに困難になる。そうなればドイツも、保護主義を叫ぶ有権者と、EU統一維持で得られる長期的な利益のはざまでの微妙な舵取りが求められるだろう。
とはいえドイツが主導権を握る兆しは「事態を好転させる」ものだと欧州政策研究センター(ブリュッセル)のダニエル・グロー所長は言う。ヨーロッパから何カ月ぶりかに出る朗報かもしれない。
ドイツは11月にベルリンの壁崩壊20周年を迎える。それまでに経済危機が終わることはないだろうが、記念日を明るいムードで迎えられる望みはまだ残っている。
[2009年3月11日号掲載]