最新記事

欧州経済

EUを揺さぶる東欧クライシス

2009年4月7日(火)15時23分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

ドイツが主導権を握れ

 EUには豊富な資金と力があるにもかかわらず、危機に際して助け合う仕組みは驚くほど不足している。EU本部が動かせる緊急安定化資金は250億ユーロしかなく、そのほとんどはすでにハンガリーとラトビアの救済に使われた。

 昨年10月には欧州中央銀行(ECB)が50億ユーロをハンガリーに緊急融資した。後は加盟国全体で決めるか、加盟各国の自発的な決定を待つしかない。オーストリアが再三にわたって1500億ユーロの東欧支援をEUに呼びかけたが、賛同した国はほとんどない。

 イギリス、イタリア、スペインは財政赤字の急増でマヒしている。フランスは保護主義路線をひた走る。そんなリーダー不在の穴を埋め、統一経済を維持しようと呼びかけられるのはドイツしかない。

 それはドイツ自身の利益にもなる。経済の40%以上を貿易に依存しているため、古い国境を復活させるわけにはいかない。それに、いま主導権を発揮すれば、多くのEU加盟国から将来にわたって好意をもたれることにもなる。

 ドイツのペール・シュタインブリュック財務相は2月16日、ユーロ圏で債務不履行の危機にあるすべての国の救済を手伝う用意があると発表した。アンゲラ・メルケル首相も東欧諸国に、3月19日の定例EU首脳会議で検討すべき計画を考案してほしいと呼びかけた。

 もちろん結果がどうなるかはわからない。状況が悪化して救済を必要とする銀行や国が増えれば、EUが資金を捻出するのはさらに困難になる。そうなればドイツも、保護主義を叫ぶ有権者と、EU統一維持で得られる長期的な利益のはざまでの微妙な舵取りが求められるだろう。

 とはいえドイツが主導権を握る兆しは「事態を好転させる」ものだと欧州政策研究センター(ブリュッセル)のダニエル・グロー所長は言う。ヨーロッパから何カ月ぶりかに出る朗報かもしれない。

 ドイツは11月にベルリンの壁崩壊20周年を迎える。それまでに経済危機が終わることはないだろうが、記念日を明るいムードで迎えられる望みはまだ残っている。

[2009年3月11日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、銀行に影響する予算措置巡りイタリアを批判

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ワールド

25年度補正予算が成立=参院本会議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中