最新記事

中東革命、世界の大いなる勘違い

中東革命の軌跡

民衆が次々と蜂起する
中東の地殻変動を読み解く

2011.05.17

ニューストピックス

中東革命、世界の大いなる勘違い

2011年5月17日(火)20時09分

  現在の中東情勢の本質を鋭く表現した動画がインターネット上で話題になっている。まったく理解不能な赤ちゃん言葉で会話している(ように見える)双子の赤ん坊の映像に、香港で広告関係の仕事をしているグレッグ・サトクリフというイギリス人が絶妙な字幕を付けたものだ。

 字幕によれば、片方の赤ん坊は、リビアの独裁者ムアマル・カダフィを「ひねりつぶす」べきだと強硬に主張。もう片方の赤ん坊は、軍事作戦を切り上げる「出口戦略」がないこと、反政府派に提供した武器が国際テロ組織アルカイダの手に渡る可能性に懸念を示す。

 2人の議論は堂々巡りで、結論が出ない。欧米の政治指導者や専門家の間で繰り広げられる議論そのものだ。

 民衆革命運動がアラブ世界に拡大するなか、揺るぎない地位を築いていたはずのアラブ諸国の統治者たちと、彼らを支持してきた欧米の指導者たちは、いま途方に暮れている。どう行動すべきかも、何を語ればいいかも分かっていないように見える。

 この4カ月近く、中東では激動の日々が続いている。まず、チュニジアとエジプトで民衆が民主化を求めて立ち上がり、独裁体制が崩壊した。

 リビアでは、カダフィ政権が反政府デモを武力で弾圧。それに対抗して3月19日、欧米がリビアへの空爆を開始した。しかしNATOの軍事介入は中途半端なものにとどまり、戦況は膠着状態に陥っている。

欧米諸国の危うい過信

 バラク・オバマ米大統領とデービッド・キャメロン英首相、ニコラ・サルコジ仏大統領は先週、共同で新聞に寄稿し、カダフィ退陣まで軍事作戦を続けると表明。一方、カダフィは首都トリポリで支持者の歓声に応えるなど、健在ぶりをアピールしている。このままでは、国家が分裂する可能性もある。

 バーレーンでは政情不安が高まり、同じ王制のサウジアラビアが軍を派遣。イエメンでも反政府デモが活発化し、独裁者のアリ・アブドラ・サレハがアラブ世界で孤立化する一方、アルカイダが混乱に付け入る動きを見せている。

 シリアでは、ここ30年ほどで最大規模の反政府デモが発生。ヨルダンの状況も極めて不安定に見える。パレスチナの人々は自治政府に対するいら立ちと、イスラエル軍の爆撃に対する怒りを募らせている。イランの体制側は、09年6月の大統領選後のような大規模な反政府デモが再び起きることを恐れている。

 こういう状況の中でも、欧米諸国の政府は、独裁者なり反体制派なりを押しつぶして情勢を沈静化させることが可能だと楽観しているように見える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国8月鉱工業生産・小売売上高伸び鈍化、刺激策が急

ワールド

アングル:学校から排除されたアフガン少女、頼みの綱

ワールド

アングル:水大量消費のデータセンター、干ばつに苦し

ワールド

アングル:米国のインフルエンサー操るロシア、大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 5
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 6
    ウクライナ「携帯式兵器」、ロシアSu-25戦闘機に見事…
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 7
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 10
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中