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ルラの真の顔は反資本主義

ルラ後のブラジル

新大統領で成長は第2ステージへ
BRICsの異端児の実力は

2010.09.28

ニューストピックス

ルラの真の顔は反資本主義

退陣を控えたバラマキ路線への転換は成長を脅かす危険も

2010年9月28日(火)12時00分
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ支局)

 後世の評価と来年に迫る大統領選での勝利をにらみ、南米の大国ブラジルの大統領が大きく左へ舵を切ろうとしている。

 このところ、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領(既に2期目で、3選は禁じられている)の大盤振る舞いが目立つ。年金支給額や公務員給与、最低賃金を、物価上昇率を上回るペースで引き上げているのもその一例だ。

 こうした人気取りのバラマキ政策は、ルラ政権が今日まで慎重に排除してきたものであり、他の中南米諸国を二流国にとどめている元凶の1つでもある。

 ルラはまた、新たな海底油田の採掘事業を国の管理下に置くよう主張し、鉱業大手ヴァーレの経営にも介入しようとしている。

 追い討ちをかけるように、ギド・マンテガ財務相は外国から流入する資金に2%の金融取引税を課すと発表。自国通貨レアルの急激な上昇(対米ドルで年初来27%)を抑えるためだという。

 ブラジルから吹く風が変わったようだ。この国は昨年来の世界金融危機の荒波も、ほとんど無傷で乗り切ってきた。賢明な経済運営の下で財政規律を保ち、現実的な構造改革を進めてきたおかげだ。

 しかしルラは変節した。同盟国にも国外の投資家にも、その真意は読めない。途上国中の大国にまでのし上がったブラジルが先進国の仲間入りを果たせるかどうかも、これで怪しくなった。

金融危機の元凶は「白い肌に青い目の銀行屋」

 変節の背景には、大統領の自負といら立ちがあるらしい。ルラは一介の労働者から身を起こし、ブラジル政界の地雷原を駆け抜けて権力の頂点に立った男。国を豊かにするには資本主義しかないと承知してはいても、資本主義にそっくり染まるのは拒んできた。

 それでも大統領になってからは、自分を殺して資本主義の路線を走ってきた。その庶民的なカリスマ性を武器に、ルラは国民に忍耐と自己犠牲を求め、それが経済の安定につながると説いた。

 ブラジルの成功が「手品でも魔法でもない」真摯な経済運営にあることを、ルラは信じていた。その証拠に、誰よりも長くルラの信頼を勝ち得ている側近は中央銀行のエンリケ・メイレレス総裁だ。メイレレスは徹底した金融引き締め論者で、ブラジルの貸出金利を世界最高水準に保ってきた。

 だが、時には昔のルラが顔を出す。景気が深刻だった時期には、「白い肌に青い目の銀行屋」と市場原理主義者が金融危機の元凶だと言い放ったものだ。

 そして危機が遠のいた今、ルラは緊縮財政などすっかり忘れてしまった。そして来年の大統領選に備え、後継候補のディルマ・ルセフ官房長官を引き連れて全国を回り、巨大公共事業の起工式に顔を出す日々が続いている。

 こうした大盤振る舞いも景気対策には必要だと、政府は弁明する。だが、一旦増えた固定費はなかなか削れない。国民受けする急場しのぎは、長期にわたる国の安定を脅かすだけかもしれない。

豊富な天然資源は外国投資家にとって魅力だが

 それでもルラは、自分のやり方こそ国を救う方法だと信じている。大西洋沖の海底に眠る推定800億バレルの大油田に関しては、競争入札で採掘権者を決める現行方式を廃止し、生産物分与方式に変更するよう求めている。要するに、誰が採掘するかは政府が決めるということだ。深海部の油田は国営石油会社ペトロブラスが独占し、採掘契約すべてに政府が拒否権を持つことになりそうだ。

 民間企業だが政府が大株主となっているヴァーレへの締め付けも強めている。この景気後退期に従業員を解雇したとか、国内への投資が足りないとか何かと圧力をかけている。いずれ全役員のクビが飛び、会社は政府の支配下に置かれるだろうとの噂もある。

 97年のヴァーレ民営化は成功だった、現に株価の時価総額は6倍にもなっているとの反論もある。その年、ブラジル石油産業の独占は廃止され、肥大化して「ペトロザウルス」と揶揄されていたペトロブラスも、生き残りを懸けて外国勢と競わざるを得なくなった。結果、今や同社は業界きっての高い収益性を誇る。慢性的なエネルギー不足に悩んでいたブラジルが、昨年にはついに石油の完全自給に成功した。

 今のところ、この風向きの変化を嫌って外国投資家が逃げ出す気配はない。何といってもブラジルには豊富な天然資源があり、インフラ整備事業の莫大なチャンスがあるからだ。

 だが国民にとってはどうか。この左旋回は、ようやく軌道に乗りだしたブラジル経済の成長を止めてしまうかもしれない。ルラとて、そんなリスクは百も承知だったはずなのだが。

[2009年11月 4日号掲載]

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