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テヘラン対話の処方箋

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2009.06.26

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テヘラン対話の処方箋

革命から30年を迎える今もアメリカを激しく挑発するイラン、米大使館占拠事件の元人質が説く「正しい外交」の始め方

2009年6月26日(金)12時43分
マジアル・バハリ(テヘラン支局)、クリストファー・ディッキー(中東総局長)

 1979年11月4日にイランの首都テヘランで起きた米大使館占拠事件で人質にとられ、444日間の監禁生活を耐え抜いたブルース・レンゲン(87)とジョン・リンバート(65)。81年1月に解放されて以来、2人は常に「イランの人質」と呼ばれてきた。この穏やかでない呼称は、苦難と挫折が続く米イラン関係を象徴するにふさわしい。

 レンゲンは当時、駐イラン米代理大使だった。大使館職員だったリンバートは、ペルシャ語に堪能で現地の大学で教えた経歴をもつ。

 事件から長い年月が過ぎた。アメリカが支援していたモハマド・レザ・パーレビ国王が追放されたイラン革命は2月10日で30周年を迎えた。イランは30年前と変わらずアメリカとその同盟国、とくにイスラエルを敵視し、激しく挑発している。核保有の現実味も増し、2月2日には初の国産人工衛星の打ち上げにも成功した。

 80年以来、アメリカはイランと国交を断絶。イラクやアフガニスタン情勢に関する協議を除けば、公式かつ直接的にイラン政府と交渉した経験がある米外交官はレンゲンらが最後だ。

 しかし対話路線を示唆するバラク・オバマ米大統領の誕生で、変化の兆しも出てきた。オバマの方針は正しいのか、イランとどのように対話するべきなのか。30年前の恐怖と緊張を肌で知る者なら、答えを知っているかもしれない。

狂人扱いすれば進展なし

 先日、レンゲンとリンバート、米国務省の担当官として人質解放に尽力したヘンリー・プレクト(76)がワシントンにあるペルシャ料理店に集まった。名物のザクロのシチューを囲みながら、イラン革命が米政府に与えた衝撃やそこから学んだ教訓について語り合った。

 イランが求めているのは「相互尊重」で、アメリカはそれに応じるべきだという点で3人の意見は一致した。問題はそのやり方だ。「イランは本気で対話を望んでいることをアメリカに納得させる必要がある」と、レンゲンは言う。一方のアメリカは「攻撃的で頭がおかしい相手だと思いながら交渉に臨んだら、合意には達しない」と、リンバートは指摘する。

 確かにイランのマフムード・アハマディネジャド大統領は、アメリカ人の目に「奇人」と映ることがある。武力攻撃される可能性がありながら、イスラエルに対してあれほど挑発的なのは常軌を逸している。オバマが対話に向けて手を差し伸べると語った際も、まず米政府が謝罪せよとはねつけた。

 「アハマディネジャドが不満を言いつのったら、反応の仕方は二つある。あの男は狂っていると切り捨てるか、彼も多くのイラン人と同じく被害者意識にとらわれていると考えるかだ」と、リンバートは言う。「イランはこれまでの苦しみを忘れていない。現実のものであれ妄想のものであれ、だ」

 いずれにせよ米イラン関係が近い将来、友好に転じることはなさそうだ。とはいえ、関係改善を焦るべきでもない。まずは中東の安定、とりわけイランと国境を接するイラクとアフガニスタンの問題について対話を始めるのが賢明だろう。

 こうした問題に関する過去の協議は成果をあげている。だが「双方の政治的思惑のせいで努力が台なしになっている」と、リンバートは話す。

 ブッシュ前政権は、テヘランのスイス大使館に米国利益代表部を設置する案を検討していた。実現すれば「前向きな一歩になるだろう」と、レンゲンは言う。

 しかしリンバートは「現段階で外交官をイランに送ることには反対だ」と異を唱える。「もしアメリカ人がテヘランにいたら、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザを攻撃した際、どんな目にあっていたか。あのとき(イラン政府は)英大使館などを襲おうとする暴徒を抑え込むのに苦労していた」

互いに敬意を示す関係へ

 「イラン人がアメリカのビザ(査証)を取りやすくするなど、犠牲を払わずにできることもあるはずだ」と、プレクトは言う。だがリンバートはこれにも「スパイを養成する気だと疑われるのが落ちだ」と反論。イランの国外資産の凍結解除にも反対だ。「『どうもありがとう。次は何をしてくれる?』と言い出すに決まっている」

 それでもプレクトは「(米政府は)イランの体制転換を唱えるのをやめ、イランの不安を取り除いてやる必要がある」と主張する。大使館占拠事件の人質が解放されたのも、アメリカが内政に干渉しないと保証したからだった。

 互いにものの言い方を変えないかぎり、関係は変わりそうにない。「『アメリカに死を!』と叫ぶデモが毎週行われる国はイランだけだ」と、イラン革命当時の米国家安全保障会議のメンバーで中東専門家のゲーリー・シックは指摘する。「アメリカ人が毎週ワシントンで『イランに死を!』と叫んだら、イランはどう思うだろう」

 シックも言うように、敬意を望むなら自ら敬意を表すことだ。

[2009年2月18日号掲載]

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