最新記事

内需を蝕む中国の医療クライシス

中国の真実

60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像

2009.04.24

ニューストピックス

内需を蝕む中国の医療クライシス

医療費負担が大きい国民はタンス貯金で自己防衛。成長を続けるには医療保険など社会保障制度の整備が急務

2009年4月24日(金)19時01分
メアリー・ヘノック(北京支局)

 中国が改革・開放へと大きく舵を切った78年12月の党中央委員会総会から30年。未曾有の経済危機に見舞われている今の党・政府の指導部に祝賀ムードはない。

 なにしろ現実は厳しい。過去の高度成長をもたらした輸出主導の経済成長モデルが限界に来たことは、もはや火を見るよりも明らかだ。08年11月の輸出額は前年同月比で2・2%減少し、01年6月以来初めてマイナスを記録。07年には12%近くあったGDP(国内総生産)の成長率も、今年は8%まで落ち込む見込みだ。

 では、どうすれば中国経済の成長を維持できるのか。この点ではエコノミストの答えも党指導部の考えも一致している。「内需の拡大」である。つまり、国民にもっと金を使わせることだ。

 だが、これが意外とむずかしい。中国の社会保障制度は破綻しており、とくに医療制度は穴だらけだ。重い病気になれば、蓄えはあっという間に消える。だから庶民は収入の多くをタンスにしまっておく。こんな状況が続くかぎり消費は増えない。

 消費に回す金がないのではない。中国人の貯蓄率は25%を上回り、総額では3兆ドルに達している。GDP比では約16%となり、世界銀行の試算によると、どのOECD(経済協力開発機構)加盟国よりも多い。

 これだけの現金があれば、計算上は簡単に輸出の減少を補える。「国内市場は大きく、貯蓄率は高く、貯金はたくさんある」。中国商務省の易小準(イー・シアオチュン)副大臣は先ごろ、そう豪語したものだ。

 経済への不安を取り除こうと、政府は08年11月、総額5860億ドルの景気刺激策を決定した。だがその重点は公共事業におかれている。政府機関の国家発展改革委員会(NDRC)によれば、予算の約45%は新たな鉄道や発電所の建設にあてられる予定。医療や文化・教育分野に使われるのは、わずか1%にすぎない。

 こんな対策では変化を期待できないとする専門家の声は増える一方だ。「社会保障を早急に整備することこそ、政府のためになる。(中国人が)貯金に熱心なのは病気になったときを恐れるからだ」と言うのは、長江商学院(北京)の黄明(ホアン・ミン)教授だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過激な言葉が政治的暴力を助長、米国民の3分の2が懸

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、7月は前月比で増加に転じる

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中