最新記事

外尾悦郎(彫刻家)

世界が尊敬する日本人

国境と文化の壁を越えて輝く
天才・鬼才・異才

2009.04.08

ニューストピックス

外尾悦郎(彫刻家)

ガウディの哲学を石に刻む

2009年4月8日(水)18時12分
佐野尚史

 バルセロナに住む外尾悦郎(53)は28年間、「石の聖書」を彫り続けている。その聖書とは、キリスト教をテーマにした装飾がいたるところに施され、着工から120年以上たった今でも天に向かって伸びる聖堂──アントニオ・ガウディが手がけたサグラダ・ファミリアだ。

 福岡出身の外尾がこの地を踏んだのは、京都市立芸術大学を卒業した翌年の78年。石を彫りたいという漠然とした思いをかかえ立ち寄った街で、吸い寄せられるようにガウディの未完の傑作と出合う。

 テストを経て、聖堂に彫刻家として採用されてからはこの道一筋。00年に完成させた「生誕の門」は昨年、世界遺産に登録された。

 外尾は単に石を彫っているわけではない。「彫刻家であり、ガウディの理念を後世に伝える哲学者だ」と、ガウディ研究の第1人者、フアン・バセゴダ・ノネルは言う。1930年代のスペイン内戦で資料の大半が消失し、完全な設計図がないサグラダ・ファミリアでは、「ガウディならどうしたか」を吟味し、創造していくことも重大な仕事なのだ。

 全体像を考え、個々の彫刻に意味づけをしながら、外尾は意匠を生み出していく。「ガウディの作品だけを見ていても、彼がそれに満足していたかはわからない。彼と同じ方向を見つめながら考えることが大切だ」と、外尾は言う。80年代、コンクリートを採用することになったときは強く反発した。「素材自体ではなく、現代の安易な物の作り方に反対だった。ガウディならコンクリートをどう使ったかを考えたうえで、利用してほしいと思う」

 素材が変わり、聖堂関係者や職人が次々と世を去り、最古参の1人となった。自宅の壁は使い古した道具で埋め尽くされている。それでもタオルを頭に巻き石と向き合うスタイルは28年間、変わらない。魂を込めてハンマーを振り下ろす音は観光客だけでなく、ガウディの耳にも届いているはずだ。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席と首脳会談

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中