コラム

戦争を正当化したラムズフェルドの「名言」が、自らを苦しめる(パックン)

2021年07月14日(水)11時42分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ラムズフェルド元国防長官(風刺画)

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<イラク戦争当時に発した、かの有名な「知らないと知らない」発言が表すラムズフェルド元国防長官の人物像>

アメリカ人が2000年代に「ドナルド」と聞いたら、俳優のサザーランドさんやディズニーのダックさんを思い浮かべただろう。でも彼らよりも先に脳裏をよぎったのがドナルド・ラムズフェルドだった人も結構いるはずだ。

ラムズフェルドは1970年代にフォード政権でも史上最年少の国防長官だったので、00年代の登板は実は2回目。約25年ぶりにブッシュ政権で再び政界に登場したことになる。サンタナの音楽とほぼ同じタイミングで返り咲いたのだ。

ブランクの間は製薬会社や機器メーカーのCEOとして次々と会社を大成功に導いた手腕の持ち主だった。長官としては、米軍が機動的に作戦を実行できるように国防総省の大胆な改革に取り組んだ。ビジョンも才能も、活動力、影響力もあったそのラムズフェルドは6月29日に亡くなった。

では、なぜ風刺画では彼が地獄に降りるシーンを描いているのか。それは、ラムズフェルドがイラク戦争の責任者の1人だからだ。2001年の同時多発テロの直後にラムズフェルドはイラクへの攻撃を狙い始めた。9.11と関係ないのに。

その後、攻撃の口実として、イラクの大量破壊兵器の所在を知っていると、ラムズフェルドは主張した。本当は存在もしないのに。そんなウソや勘違いに基づいた戦争は、8年間続いた。米軍の4000人以上、イラク国民の15万人以上が亡くなっただけではなく、地域が不安定になり、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭にもつながったとされる。

さらに、米軍が超法規的に大勢の「戦闘員」を拘束し、その一部を拷問したことも国際社会でのアメリカの評判を失墜させた。だからwarmongers(主戦論者)とtorturers(拷問する人)のエスカレーターにラムズフェルドは乗っている。

総合点として、イラクの侵略は「米史上最悪の判断」だったと、ある専門家は酷評する。そう断言したのも、もう1人のドナルド。つまり、トランプさん。歴史や外交ではなく「間違った判断」の専門家だけどね。

大量破壊兵器の証拠がないことについて聞かれたとき、ラムズフェルドは「知っていること」、「知らないと知っていること」、「知らないことさえ知らないこと」と、情報を3つの種類に分けて弁解をして、報道陣を煙に巻いた。これが彼を迎え入れるサタンの歓迎の言葉に使われている。

死者を風刺するのは不謹慎かもしれない。果たして罰が当たるのか、当たらないか。それも「知らないのを知らないこと」だろうね。

ポイント

WELCOME TO THE "UNKNOWN UNKNOWNS," SECRETARY RUMSFELD!

ラムズフェルド長官、「知らないことも知らない」世界にようこそ!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、インド関税25%と表明 ロ製兵器購入に

ビジネス

カナダ中銀、3会合連続で金利据え置き 世界貿易戦争

ワールド

トランプ氏、関税発動期限の延長否定 8月1日は「揺

ワールド

トランプ氏、FRBに利下げ改めて要求 「第2四半期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    タイ・カンボジア国境紛争の根本原因...そもそもの発…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「出生率が高い国」はどこ?
  • 10
    グランドキャニオンを焼いた山火事...待望の大雨のあ…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story